エピソード
トリビア
1985年12月25日、アスキーより発売されたファミリーコンピュータ版『ぺんぎんくんWARS』は、UPLが同年にアーケードで発表した同名タイトルの移植作である。開発はパックスソフトニカ、価格は5500円。プレイヤーはペンギンの「ぺんぎんくん」を操作し、台を挟んで向かい合う相手にボールを投げ合う一対一の競技を行う。ルールは明快で、制限時間60秒のあいだに相手陣地へボールをすべて送り切るか、タイムアップ時に自陣のボールが少なければ勝利となる。ボールを当てると相手が気絶し、反撃の隙を奪うことができる。この構造が生む攻防のリズムと緊張感は、単純ながら非常に中毒性が高かった。
各ラウンドには異なる動物たちが登場する。ネズミ、ウサギ、ビーバー、パンダ、コアラなど個性的な相手が順番に立ちはだかり、それぞれ投球速度や回避行動が異なる。特に終盤に登場するコアラは異様な反応速度と投げ精度を誇り、当時多くのプレイヤーがこのキャラで敗退した。中盤以降は一定時間経過後に“斜め投げ”が解禁され、さらに引き分け時には“爆弾ボール”が投入されるなど、単調さを防ぐ工夫も盛り込まれている。家庭用では1人用トーナメント形式で進行し、各試合2本先取制。勝利を重ねるたびにステージが進行し、インターバルではもぐらにボールを当てるミニゲームが挿入されるなど、緩急のついた構成が印象的だった。
ファミコン版ではハードウェアの制約から、アーケードの滑らかな動きや音声表現は簡略化された。キャラクターは小さく、背景はシンプルだが、動作スピードと操作レスポンスは良好で、対戦アクションの緊迫感を損なっていない。BGMは一定のテンポで繰り返され、短い電子音の効果音が試合のテンポを形づくる。全体に装飾は少なく、余白の多い画面設計が逆に集中を促す。ボールを当て合うだけの構図に見えて、実際にはリズムゲームのような緊張の波が生まれる。
この作品の根底には、「可愛さと残酷さの同居」というテーマが潜んでいる。ぺんぎんくんは笑顔のまま、ためらいなくボールを投げ続ける。相手が倒れれば勝利だが、その姿にはどこか哀しさが漂う。動物たちは傷ついても倒れても笑顔を崩さず、プレイヤーだけがその不条理さを意識する。NAOの短評「ペンギンにこんな過酷な運命を背負わせるな。」は、この矛盾を突いている。ゲームが成立するために、彼らは永遠に競技を続けなければならないのだ。
後半のAIは一層攻撃的になり、反射神経と冷静な判断の両立が求められる。負けを重ねるうちに、相手が強いというより自分の判断が鈍くなったことに気づく。NATSUの短評「敵が賢いんじゃない、自分が鈍いだけ。」はまさにその心理を言い当てている。プレイヤーが自分のリズムを取り戻す瞬間こそが、この作品の核心にある。
『ぺんぎんくんWARS』は、当時としては珍しい純粋な対戦アクション型の家庭用タイトルであり、投げ合いゲームの系譜につながる要素を早期に示していた。かわいらしい見た目とは裏腹に、心理戦と集中力を極限まで試すタイトルであり、ファミコン初期における競技性の高い一作として今なお独特の存在感を放っている。
NAO:総評
ペンギンの笑顔は、競技の残酷さを覆い隠す仮面だった。勝つためには相手を倒し続けなければならず、やがて自分が何をしているのかさえ分からなくなる。無限の往復運動は、画面の中だけの悲劇でもあり、プレイヤーの精神そのものの投影でもある。可愛い世界の裏側で、ゲームの論理が命を削っていく。『ぺんぎんくんWARS』は、その矛盾を最初に可視化した作品だった。笑いながら戦い続けるペンギンに、時代の冷たさが映り込んでいる。
出典:NAONATSU:総評
最初はかわいい対戦ゲームだと思っていたのに、やってみると心が追い込まれる。投げて、拾って、また投げての繰り返し。ちょっとリズムを崩すと、一気に負けが決まる。コアラのスピードについていけなくて焦るたびに、自分の反応が鈍っていくのが分かる。それでも再挑戦したくなるのは、音と動きの一体感が気持ちよすぎるから。単純なのに深い。このゲームは、集中力と根気の試練をペンギンの姿を借りて教えてくれる。
出典:NATSU📘 説明書資料(ペンギンくんウォーズ [HSP-03])
説明書:Internet Archive 所蔵版(ペンギンくんウォーズ [HSP-03])
※Penguin-kun Wars [HSP-03](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します
















































発売日:1985/12/25|価格:5500|メーカー:アスキー|ジャンル:アクション
NAO: ペンギンにこんな過酷な運命を背負わせるな。
NATSU: 敵が賢いんじゃない、自分が鈍いだけ。