エピソード
トリビア
1980年代半ば、家庭用ゲームがようやく“冒険”を語れるようになった頃に登場した『アトランチスの謎』は、プレイヤーの探索心を極限まで刺激する異色のアクションゲームだった。舞台は海底に沈んでいたはずの伝説の大陸アトランチス。突如姿を現したその島へ、若き冒険者ウィンが師匠救出のために単身挑む。武器は師の発明した小型爆弾「ボン」。軽快な音楽に反して、わずかな操作ミスで奈落に落ちる冷徹な世界が待ち受けていた。
本作の特徴は、100以上のゾーンに細分化されたマップ構造にある。表面上は横スクロール型のアクションだが、実際は“どの扉や穴に入るか”で次に行くステージがまったく変わる。順路は固定ではなく、面番号が飛び飛びで進行するという大胆な仕掛けが施されている。序盤から一気に終盤へ飛べるワープもあれば、逆に初期面へ戻される落とし穴もある。数字の並びを信じて進むと裏切られるという構造が、タイトルの「謎」を象徴している。
操作はシンプルだ。十字キーで移動、Aボタンでジャンプ、Bボタンでボンを投げる。ボンは弧を描いて飛び、地形や敵を破壊するほか、壁の陰に隠れた通路をあぶり出す役割も持つ。ジャンプの慣性が強く、足場の端を読み違えると一瞬で転落死。敵の配置よりも足場の恐怖がプレイヤーを支配する。ときに見えない扉や爆破で出現する入口があり、マップの記憶と推理が重要になる。敵を倒して進むより、どのルートを選ぶかの方が本質的な戦いとなっている。
ゾーン構成は草原・遺跡・洞窟・神殿・空中と多様で、ところどころにモアイ像やピラミッドが現れるなど、世界観は明確な統一を拒む。これが“未知の文明”の雰囲気を生み、何か得体の知れないものを探っている感覚をプレイヤーに与えた。ゲームデザインはどこか実験的で、ミスの多さを前提にテンポよく再挑戦できるよう設計されている。音楽は明るいリズムだが、何度も同じ場面に戻されるうちに、いつしか耳に残る不思議な催眠性を持つ。
本作は、発売当時の販促キャンペーンも印象的だった。バスタオル500名・スポーツタオル1000名が当たる「早いもの勝ちプレゼントキャンペーン」が実施され、応募方法は同梱チラシに記載されたエリア20の“キーワード”をはがきに書いて送る形式だった。先着順での当選という斬新な仕組みに加え、別枠の「ダブルチャンス」企画も設けられており、応募者全員の中から抽選でオリジナルスポーツタオルがプレゼントされた。締切は1986年5月末と6月末の2回に設定され、まさにリアルタイムで競う熱気を感じさせる内容だった。景品はいずれもゲームロゴをあしらった特製デザインで、子どもたちにとっては「テレビの中の冒険世界」と現実がつながるような夢の企画だった。画面の中で“隠し扉を探す”ゲーム体験と、現実で“早い者勝ちを競う”応募体験が重なり、80年代の熱狂を象徴している。
この作品の魅力は、プレイヤー自身が地図を描くことにある。どこへ飛ぶかわからない扉、落下後に突然現れる新しいゾーン、戻り道のないルート。試行錯誤のすべてが「自分だけの冒険譚」になる。ときに爆弾の角度を変え、見えない床を確かめ、壊れる壁を探す――すべてが手探りの発見だった。子どもたちはノートに番号と分岐を書き写し、放課後の仲間と情報を交換した。雑誌『ファミマガ』や『ファミコン通信』が次々に新ルートを公開し、そこに書かれた小さな数字が週末の冒険のヒントになった。
また、難解さと理不尽さは表裏一体だった。ステージが進むほど即死トラップが増え、特定のルートを知らないと一歩も進めない場所もあった。それでも諦めずに挑み続けるうちに、プレイヤーは“死んで覚える”リズムを自然と体に刻む。やがて、敵よりも地形、地形よりも記憶力との戦いになる。これは当時のアクションゲームが共通して持っていた“忍耐の美学”を凝縮した設計でもあった。
最終ゾーンにたどり着くと、プレイヤーを待つのは行方不明だった師匠。その姿を見た瞬間、多くの人が思わず笑った。そこにいたのは――あの『いっき』のごんべとそっくりの人物だったのである。なぜ彼がアトランチスにいるのか、物語は何も語らない。
だが、その唐突な出会いこそが、長い旅路の締めくくりにふさわしい“最後の謎”だったのかもしれない。
なぜ、いっきのごんべが居るのか――それが最後の謎であり、『アトランチスの謎』なのかもしれない。NAO総評
マリオ的な一本道の快走ではなく、行き止まりと飛び番で“足を止めさせる”設計が徹底している。敵より怖いのは足場と扉の配置、そして自分の焦りだ。数字の並びを信用すると裏切られ、爆弾の弾道と落下位置で活路が開く。師匠救出は目的だが、実体は弟子の自立。昭和の紙雑誌や口コミと連動する構造まで含めて、遊び手の側に“謎を解く責任”を押し返すゲームだった。面ワープの愉悦は、攻略図では表せない。だからこそ癖になるし、だからこそ人を選ぶ。
出典:NAONATSU:総評
初めて扉で別の番号に飛んだとき、画面の外に地図が広がった気がした。失敗してもすぐやり直せるから、放課後の時間はいつも少しだけ延びていく。エリア20のキーワードを探して、チラシの応募はがきを眺めたことも覚えている。うまくいかない夜ほど、明日は別の道を試したくなる。師匠を助けに行くはずが、気づけば自分のために走っている。ひたすら面ワープ、これぞ昭和ゲー。雑なところもあるけれど、その雑さが、当時の空気まで一緒に連れて来るのだ。
出典:NATSU📘 説明書資料(アトランチスの謎 [SS4-4900])
説明書:Internet Archive 所蔵版(アトランチスの謎 [SS4-4900])
※Atlantis no Nazo [SS4-4900](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属しますアトランチスの謎:オリジナルバスタオル

strider@2048(2018/06/29)| オリジナルTWEET 出典:x.comアトランチスの謎 復活のザヴィーラ(桜ノ杜ぶんこ)
『アトランチスの謎 復活のザヴィーラ』は、ファミコン版でほとんど説明されない世界観を物語として補完した公式ノベライズです。ゲームでは“ミラージュパレスを突破して救出する”という最低限の筋書き以外は一切描かれませんが、本書ではザヴィーラ側の背景やアトランチスの成り立ちまで言語化されており、当時プレイヤーが想像していた「この先には何があるのか」という余白を小説として再構築しています。後付けながら、謎解き型アクションとしての原作と好相性の一冊です。¥660 (2025/10/30 19:08:29時点 Amazon調べ-詳細)出典:amazon.co.jp


















































発売日:1986/04/17|価格:4900|メーカー:サン電子|ジャンル:アクション
NAO: 師匠救出というより弟子の冒険感。
NATSU: ひたすら面ワープ、これぞ昭和ゲー。