エピソード
トリビア
1986年7月18日、ナムコが3900円で発売した『バベルの塔』は、横視点で塔の各フロア(全64階)を一つずつ解くアクションパズルで、主人公インディ・ボーグナインを操作し、L字型ブロックを持ち上げ・運び・積み替えて出口へ至る“階段づくり”を延々と繰り返す設計である;ジャンプはできないため、一段しか登れない身体能力をL字ブロックの段差に変換する発想がコアに据えられ、上りやすい面と上れない面をブロックの向きだけで切り替える“向き替えテクニック”が攻略の生命線になる。さらにフロア内の“仮面”に塞がれた出口はクリスタル(水晶球)をすべて回収すると開くステージもあり、道づくりと回収ルートの同時最適化が常に問われる。敵を倒す爽快感ではなく“足場の構造を読み替える知性”に重心を置いた点が、同時期のアクションと一線を画し、パズルとしての純度を際立たせた。
本作がユニークなのは、時間制限ではなくパワーカウントによって手数(=持ち上げ回数)を制約していることだ;ブロックを1回持ち上げるごとにパワーを1消費し、無駄な持ち上げはそのまま詰みに近づくため、一手の価値が鮮明になる;壺を取ればパワーが回復し、冠・宝石・ランプ・星といったアイテムが点在してスコアや一時効果(ランプでブロック貫通、宝石で無敵など)を付与するが、最短解を詰める場面ほど“余計な手”を抑える思考が効く;また、ツタ(蔓)は昇降の要だが、ブロックを抱えたままでは登れず、置き位置と登りの往復作業が立体的な順序を生む。各フロアごとに出口到達後はスコア画面を挟み、選択式で次の階へ進む流れで、ファミコン版は1〜64階からのフロアセレクトに対応しつつ、16階以降には個別パスワードの入力が必要という“当時の家庭用らしさ”も併走する。
さらに本作は8階ごとに隠し部屋で壁画(シンボル)が提示され、64階到達後に現れる“ビッグパスワード入力”の正解を、プレイ中に自分で採集・記録しておくという“外部記憶”の遊びを内蔵する。ヒントが乏しいため当時は総当たりや雑誌攻略頼みの体験が一般的で、ここで初めて“パズルの外側”にある行為(メモ/照合/推理)が、ゲームの結末と直結していたことがわかる。正解入力でエンディングに至ると、タイトル画面での特殊コマンドから「裏バベルの塔」(プロモード)へ挑戦可能になり、表64面に加えて裏64面、合計128面の超ボリュームが開放される。裏では壺を取ってもパワーが回復しない等の厳格化が施され、同じ規則で別解を捻り出す“思考の二周目”が成立、パズルの核を崩さずに学習の次段を提示した構成は、家庭用パズルの設計として現在見ても野心的だ。
派生・再展開の面では、アーケード向けにVS. Tower of Babel(任天堂VS.システム)が同年に登場し、ファミコン版と比べて60階構成、時間制の導入、パワー概念の削除などの差分がある一方、L字ブロックの思想と階段生成の快楽は共有されている。後年はWii UバーチャルコンソールやSwitch向けコレクション等で再流通し、2023年には“Mystery Tower”名義で海外向けに正式展開されるなど、地味に見えてコアが強い設計が世代をまたいで受け入れられてきた、結局のところ『バベルの塔』の記憶に残る硬派さは、演出や反射神経より“配置と順序の発明”に報酬を与える姿勢にあり、L字という制約を使って上り階段を生み出す瞬間のカチリと決まる手触り——向き替え、持ち替え、置き直し、登り直し、その一連がひとつの正解に収束してゆく気配——が、今もなおパズルの快楽の中核として響き続けているのだ。
NAO:総評
L字という“不自由”で上り道を発明させる構図が潔く、手数を削るたびに設計の無駄が浮き彫りになって、壺での回復も結局は思考の散漫さの指標に化ける。八階ごとの壁画とビッグパスワードは、解の外側に検証を押し出した拡張で、裏では回復を断って構造をむき出しにする——反射より順序、力業より段取り、演出より証拠、パズルの矜持を最後まで崩さない一本。
出典:NAONATSU総評
最初はただの石運びでも、向きを変えて二段をつなぐ瞬間に景色が一段明るくなって、ツタの一本がちょうど良い導線に見えてくる。八枚の壁画を埋めて大きな合言葉を当てる夜、ノートの落書きみたいな図形が急に意味を持つ感覚が好きで、裏に入って壺で戻らないパワーを数えるたび、子どもの頃の“あと一手”が今も続いていると気づく。
出典:NATSU📘 説明書資料(バベルの塔 [NBL-3900])
説明書:Internet Archive 所蔵版(バベルの塔 [NBL-3900])
※Babel no Tou [NBL-3900](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します

















































発売日:1986/07/18|価格:3900円|メーカー:ナムコ|ジャンル:パズル
NAO: 積み重ねることの奥深さを知るゲーム。
NATSU: 静かなのに、焦る。不思議なパズル感。