ファミコン3Dシステムシリーズ
エピソード
トリビア
1987年8月7日にスクウェアから4500円で発売されたハイウェイスターは、見た目の軽さに反して最初の数分で迷子になるレースゲームだ。車の後ろから道路を見下ろす擬似三次元の視点は、加速した瞬間に本当に速く見えるのに、曲がり角へ差しかかると急に距離感がつかめなくなる。とっさにハンドルを切ると車体が横を向き、隣の車へ触れただけで跳ねて、時間だけが減っていく。疾走感はあるのに息が続かないのは、画面の奥行きと時間制限の圧が同時に来るからだと思う。さらに音も気になる。エンジン音と衝突音が前へ出て、BGMが奥へ押し込まれるように感じられる瞬間がある。ところがこの作品は走りながらBGMを切り替えられる。そこで気づく。これは好みの曲を選ぶおまけではなく、カーラジオのつまみを回すように自分の集中を整える仕掛けなのだと。走行中に三つの曲を切り替えられるので、景色より先に気分を変えられる。曲が変わるだけで、同じ直線でも視界が広がるように感じる夜がある。曲を替えるたびに看板の文字や空の色が違って見えてくる気がして、耳の不満が少しだけ景色の喜びへ変わる。慣れればその騒がしささえ風になる。
遊びは明快で、328ツインターボとF1マシンという二種類のマシンから選び、チェックポイントの旗に間に合うように走り続ける。コースは八つあり、西海岸から東海岸へ横断する旅の形を取り、ロサンゼルスやサンフランシスコ、アテネなど、場所ごとに空の色や路面の表情が変わる。速度計は一気に上がり、一定の速度からはターボでさらに伸ばせる作りで、最高速は表示上で二百五十五まで届く。速さの代わりに操作は繊細になり、他車や障害物へ当たると車が転がって時間を失う。周囲の車は進むほど速くなり、天候変化も混じるので、同じ操作でも路面の表情が違って感じられる。抜くつもりが進路を塞がれて、見えない渋滞に追い詰められる瞬間もある。走行中にBGMを切り替えられるのは、気分転換だけでなく、耳の情報量を整えて操作を落ち着かせる助けになる。時間が尽きた瞬間に即終了ではなく、車が惰性で減速して止まるまで少しだけ余裕があるのは面白い。最後の数秒で旗へ滑り込むことがあり、転んだ分だけ悔しいのに、間に合った分だけ安堵が大きい。表示面では進行度のバーや残り時間が常に目に入り、焦りを煽るが、だからこそ一回一回の短い走りが濃い。アウトランに似ていると言われがちでも、一本道の緊張と時間の押し引きで別の味を作っている。セレクト操作で立体表示のモードへ切り替えることもでき、日本版では対応する立体表示の仕組みを使う前提が用意されていた。平面の画面では難しかった距離の感覚が、立体だと少し分かりやすく感じられる場面があり、当時の家庭用としては見せ技として十分に強い。
裏側の話を知ると、この作品が単なるドライブゲームではなく、技術の実験台として生まれたことが見えてくる。画面の立体感も、当時の周辺機器や立体メガネを前提にした試みとして語られ、家庭で立体を試す体験そのものが売りの一部だった。スクウェア社長の宮本雅史が、新しく加わったナーシャ ジベリの三次元表現の腕前を示す題材として企画したとされ、プログラムの中心を彼が担った。背景の動きを現実らしく見せるために、彼が紙に描いた線画を元に立体の表現を詰めたとも語られ、周囲が休暇に出ている間も日本に残って調整を続けたという記録がある。デザインは坂口博信、作曲は植松伸夫、ドット絵は渋谷員子が担当した記録が残り、後に別作品で名を上げる名前がすでに並んでいる。開発では時田貴司が看板の仕掛けを作った話や、同時期に田中弘道や河津秋敏が関わったことも語られている。米国の展示会では別の仮題で発表され、日本ではハイウェイスターとして出たあと、海外ではラッド レーサーの名で展開された。アーケードでは任天堂の入れ替え式筐体の収録作にもなり、家庭用の速さをそのまま見せる役を担った。海外では映画で遊ばれる場面が映ったり、大会向けの特別コースに採用されたりして、走る遊びの象徴として記憶される。スクウェアの立体表示対応作としてはワールドランナーと並んで語られ、立体という言葉がまだ未来を指していた時代の見本になった。続編は海外でラッド レーサー2として出たが、日本版の時点で見せた速さと立体の仕掛けはすでに完成していた。だから音が気になる日ほど、カーラジオの気分で曲を切り替え、速さの感触だけを信じて走ると、当時のスクウェアが何を見せたかったのかが最後に腑に落ちる。
NAO総評
疾走感は確かにあるのに、音だけは最後まで付きまとう。擬似三次元の路面と背景の流れは当時のスクウェアの技術デモそのものだが、効果音が主張してBGMが埋もれる瞬間があるのが惜しい。後に別作品で名を上げる開発陣が揃っているのに、耳の気持ちよさだけは同時代の限界が見える。アウトラン風の見せ場を借りつつ、曲を走行中に切り替えられる救いがあるので、車内ラジオのつまみを回す気分で自分の集中を作る。それがこの作品の正しい付き合い方だと思う。
出典:NAONATSU総評
カーラジオみたいにBGMを替えながら走ると、ファミコン音でもちゃんと風が吹く。チェックポイントへ滑り込むたびに胸がふっと軽くなって、景色が変わるたびに旅の気分が増える。立体で遊べる仕掛けに惹かれて始めても、最後に残るのは好きなメロディーと、急いで間に合った瞬間の安心だと思う。音が気になる日もあるけど、曲を選んで気分を上げれば、走る楽しさがちゃんと勝ってくれる。ひとりでも、隣で見ている人とも笑える速さがある。
出典:NATSU
📘 説明書資料(ハイウェイスター [SQF-HI])
説明書:Internet Archive 所蔵版(ハイウェイスター [SQF-HI])
※Highway Star [SQF-HI](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet
※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照。権利は各社に帰属します。



















発売日:1987/08/07|価格:4500円|メーカー:スクウェア|ジャンル:レース
NAO: 疾走感はあるけど、やっぱ音が気になる
NATSU: カーラジオからメロディーが流れてる気分で走れ