上海シリーズ
エピソード
トリビア
1987年12月4日、サン電子からファミコンにやって来た上海は、麻雀牌を使うのに麻雀ではない、静かなのに胃がきりきりするパズルだった。画面に積み上がった牌の山を前にすると、最初は何をしていいか分からない。見えている同じ絵柄を選んでも弾かれてしまい、ただ理不尽に感じる。けれど理由はちゃんとあって、取れるのは自由牌だけだ。上に牌が載っておらず、左右どちらかが空いている牌だけが手に取れる。牌は基本的に同じ絵柄同士でペアにするが、季節牌と花牌だけは、それぞれの仲間同士なら絵柄が違っても組にできる。麻雀で見慣れた数牌や字牌に、特別枠が混ざるせいで、目だけが先に騙される。つまり見えているペアは餌で、本当に必要なのは先の局面をほどくための順番で、そこが分かった瞬間からこのゲームはただの運ではなくなる。
操作は落ち着いているのに、焦りだけが増えていく。十字キーでカーソルを動かし、Aボタンで牌を選び、Bボタンで選択を取り消す。セレクトでメニューを呼び出し、スタートでメニューを閉じる。牌が自由でない時は自由ではないと告げられ、絵柄が合わなければ合わないと突き返される。黙って進めばいいはずのパズルが、ことごとく否定から始まる感じがするのに、それでも次の一手だけは試したくなる。遊び方は三つあり、時間を気にせず一人で崩すソリティア、一定時間内にどれだけ消せるかを競うトーナメント、そして二人が同じ山を交代で崩す挑戦が用意されている。挑戦は二枚取るか時間切れで交代し、時間切れはパス扱いになる。パスが続くか、取れる牌がなくなった時点で終わりで、消した枚数が多い方が勝ちだ。静かな勝負が、急に体感型の対戦へ変わるのも面白い。
このファミコン版は、アクティビジョンが出した上海を土台にしつつ、遊びの前口上まで含めて異様に丁寧だ。説明書では麻雀が長い歴史を持ち、孔子の時代までさかのぼるという伝説めいた話から始まり、やがて中国からアメリカへ広がったと紹介して、遊ぶ前から異国の空気をまとわせる。けれど実際に向き合うのは、ドラゴンと呼ばれる山型の配列と、毎回のランダムな積み方だ。牌は全部で144枚という量感があって、山のどこかに同じ絵柄が複数眠っていると分かっていても、自由牌にならない限り触れない。説明書も同じ配置でも積み方で難度が跳ね上がることを認めていて、たしかに一晩で気持ちよく崩せる日もあれば、数分で完全に詰む夜もある。説明書が、唯一解決できない問題として遊ぶ人がやめられなくなることを挙げているのも、冗談に見えてわりと本気だ。
救いがあるとすれば、牌の山はただ意地悪なだけではなく、順番を覚えるほど自分が賢くなった気分をくれることだ。序盤は邪魔をしている牌を優先して外し、同じ絵柄は二枚だけで満足せず、三枚目四枚目の位置まで追いかける。説明書が提案するそうした考え方は、攻略の答えではなく、迷子のまま歩くための地図になってくれる。裏側を見ると、上海はプログラムとデザインの出自を海外に持ちつつ、家庭用へ広がる過程で各社が独自の顔を与えていった題材でもある。ファミコン版のスタッフにはサンソフト作品で知られる作曲者の名があり、画面は静かでも音の輪郭がプレイヤーの集中を支える。後年も上海は続編や派生作が作られ、携帯機やアーケードへ形を変えながら残っていくが、その原点にはこの一作が持つ冷たさと優しさの両方がある。華やかな演出は少ないのに、やめどきだけは見つからない。詰んだら終わりなのに、詰むまでやる。上海はその矛盾を、静かな画面のまま肯定してしまう。次は別の積み方ならいけると信じて、また電源を入れてしまう。
NAO総評
アニメの洒落感よりずっと冷たい顔で、理不尽な牌配置に泣かせながらも理由は説明書とルールで突き付けてくる、自由牌の条件を飲み込むと今度は自分の欲がミスを生み、同じ配列でも積み方で難度が跳ねるのを逆手に取って負けた言い訳まで奪い、静かな画面にサンソフトの音だけが淡々と残るから余計に焦る、遊ぶ人が自分で自分を追い込む仕組みがあまりに1980年代らしく、気付けば夜を溶かしている、そんな修行を娯楽として通したのが怖い。
出典:NAONATSU総評
夜中に少しだけのつもりで始めて、詰んで悔しくてもう一回だけを繰り返し、気付いたら朝になっている、その時間の溶け方がこのゲームの怖さで、牌の絵柄が整っているからこそ崩れる瞬間がきれいで、失敗すると画面にやさしくない言葉が出るのに不思議と責められている気がしない、トーナメントで同じ山を交代して比べると性格まで見えるのも懐かしくて、静かな部屋で十字キーの音だけが残る感じまで思い出す、冬の朝の光がやけに眩しい。
出典:NATSU
📘 説明書資料(上海 [SS9-5300])
説明書:Internet Archive 所蔵版(上海 [SS9-5300])
※Shanghai [SS9-5300](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet
※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照。権利は各社に帰属します。













発売日:1987/12/04|価格:5300円|メーカー:サン電子|ジャンル:パズル
NAO: 理不尽な牌配置に泣かされつつやめられない魔力あり
NATSU: 夜中に始めたのに気づいたら朝、って本当にあるゲーム