山村美紗サスペンスシリーズ
エピソード
トリビア
発売日1987年12月11日、タイトーからファミコン向けに出た山村美紗サスペンス 京都龍の寺殺人事件は、いかにも長い題名の通り、京都の地名と寺の名前が次々に飛び出す推理アドベンチャーだ。価格は5300円。最初に戸惑うのは事件よりも距離感で、龍の寺だの嵐山だの、聞き慣れない固有名詞が会話に混ざり、画面の前にいるだけなのに土地勘のない旅人にされる。物語の出発点は京都の龍安寺での花見で、そこで死体を見つけた瞬間から空気が一変する。しかも主人公は刑事でも探偵でもなく、ゲームデザイナーのちえりいという変化球で、偶然の発見者でありながら自分が疑われる側に回ってしまう。自分の作っているゲームの筋書きと、現実に起きた殺人の手口が重なって見えるせいで、捜査は清々しい正義ではなく、身の潔白を証明するための焦りとして始まる。京都旅行のパンフレットみたいな言葉の並びに惹かれつつも、捜査の段取りが分からず、ただ長い地名だけが頭に残っていく。龍の寺の庭の静けさを想像した次の瞬間に、次はどこへ行けと言うのかで立ち止まる。そんな迷子感から始まるのがこの作品らしさだ。
遊び方も当時のコマンド選択式をひとひねりしていて、画面下に並ぶのは文字の一覧ではなくアイコン群だ。話す、調べる、物を使う、見せる、考えるといった行動が絵で示され、十字キーで画面内のカーソルを動かし、Aボタンで決めていく。人物や物を指し示してから調べる感覚があり、何を相手にしているのかが視覚で残る。さらに終盤では指さすような決定的な行動も用意され、集めた情報がただの読み物で終わらない設計だ。いちばん救いになるのは外国人のアマチュア探偵キャサリンで、困ったときは彼女に相談して助言をもらえる。とはいえ助言は万能ではなく、寺や町を移動して証拠と証言を積み重ねないと、次の扉が開かない。間違った順で動くと何も起きず、正しい言葉を引き出すまで同じ場所を往復する。難しさの正体は敵の強さではなく、情報の出し入れの癖に慣れるまでの時間だ。けれど、その遠回りが無駄に見えないのは、舞台が京都だからだ。寺社や町の名前が記憶に引っかかり、移動が増えるほど景色の輪郭が濃くなる。捜査の手順に迷うほど、京都の街を歩いた気分だけが先に育っていく。そのズレが妙に楽しく、旅行気分と焦燥が同居する。
裏側を知ると、このクセの強さも少し納得がいく。名義にある通り、山村美紗のキャサリンシリーズを土台にしたゲーム化で、作者名そのものを看板にした企画だった。原作側のシリーズキャラクターであるキャサリンがゲーム内でも案内役になり、京都を舞台にした連続殺人の味付けがそのまま遊びの骨格になる。発売当時のパッケージでは作者の写真が使われたこともあり、推理作家の存在感を前面に出していた。開発はトーセが担当し、ファミコン版の後にMSX2へも移植されるなど、当時としては珍しく機種をまたいで展開した。さらに同じ看板で続編や派生作が作られ、京都花の密室殺人事件や京都財テク殺人事件へつながっていく。別の機種では実写映像を使う作品へ広がった例もあり、後年にはニンテンドーDS向けに複数シリーズの主人公をまとめた作品が登場し、映像中心の作品を遊びやすい表現へ組み替えた移植も行われた。京都ミステリーをゲームで語る方法を、時代ごとに変えながら延命してきた系譜がここにある。
作品内のトリビアとして面白いのは、京都らしい言葉遊びが仕掛けに混ざる点だ。手がかりが文字の並べ替えになっていたり、意図を読ませるためにわざと遠回りをさせたりする。ひらがなの断片が花びらのように散らされ、正しい順に並べると意味が立ち上がるような見せ方もあり、地名の記憶と推理の記憶が同じ引き出しに収まっていく。龍の寺という言葉がただの飾りではなく、京都の寺社を歩く感覚そのものが捜査のリズムになっているから、長い地名の洪水がそのまま作品の個性になる。結局このゲームは、事件を解く快感と同じくらい、京都の空気を借りて迷子になる時間を味わう作品だ。捜査のルートがそのまま観光のルートに重なり、知らない町を歩かされるほど、事件の輪郭も京都の輪郭もはっきりしていく。遊び終えた後に残るのは犯人の名前だけでなく、龍の寺より長い地名が最後までついて回る感覚と、あの寺の庭の静けさと、口に出すだけで息が長くなる地名の列だったりする。
NAO総評
長い地名が連打されるのに、捜査の手順は容赦なく不親切で、頭の中だけが先に京都で迷子になる。龍の寺より長い地名と証拠の提示に振り回されながら、コマンド総当たりの時代の作法を思い出させる。救いのはずのキャサリンの助言も万能ではなく、結局は自分の足で情報の順番を整えるしかない。作者名を前面に出した看板の強さと、遊び手への遠慮のなさが同居していて、捜査より地名が先に記憶へ刺さるのが、いちばんの皮肉として残る。
出典:NAONATSU総評
気づいたら犯人探しより、京都の寺や町の名前を覚えるほうが先に進んでいて、迷子なのにちょっと楽しいのが悔しい。つまずくたびにキャサリンに頼りたくなるけど、助言だけでは答えに届かなくて、結局は自分で歩いて確かめないと前に進めない。夜に遊ぶと画面の静けさが妙に沁みて、解けない時間さえ旅行の寄り道みたいになる。だからこそ一つ解けた瞬間、旅の景色まで明るくなる感じがして、京都旅行した気分がちゃんと残るのよね。
出典:NATSU
📘 説明書資料(京都龍の寺殺人事件[TFC-KR5500])
説明書:げーむのせつめいしょ(京都龍の寺殺人事件[TFC-KR5500])
※The Kyoto Dragon's Temple Murder Case[TFC-KR5500](JP)
区分:説明書/Manual/Instruction_Booklet
※げーむのせつめいしょ様による保存資料です。 / 権利は各社に帰属します。















発売日:1987/12/11|価格:5300円|メーカー:タイトー|ジャンル:アドベンチャー
NAO: 龍の寺より長い地名と捜査が頭に残る
NATSU: 京都旅行した気分になれるのが最大の魅力かも