エピソード
トリビア
1986年3月19日、東映動画(現・東映アニメーション)から発売されたファミリーコンピュータ用ソフト『バルトロン』は、アニメ会社による異色のゲームとして当時も話題を呼んだ。開発を手がけたのはショウエイシステムで、価格は4900円。ジャンルは横スクロール型のシューティングゲームだが、単純な横移動ではなく、左右どちらの方向にも自由にスクロールできる“反転型シューティング”という独自の構造を持っていた。プレイヤーは戦闘機「ジストリアス号」を操り、エネルギーを消費しながら未知の惑星を探索し、敵勢力「バルトロン軍」を撃破していく。
本作の特徴は、前進と後退を自由に切り替えられることにある。自機を画面の左側に寄せればゆっくりと、右側に寄せれば高速でスクロールが進み、状況に応じて進行方向を反転させることもできる。敵弾の流れを見ながら一瞬で方向転換し、逃げ道を作る――この動きができなければすぐに撃墜されてしまう。そのため、スピードの緩急や切り返しの判断が生死を分ける、まさに“リズムで操るシューティング”だった。
操作はAボタンでショット、Bボタンとの組み合わせでスクロール方向を変更。さらにB+上でスマートボム、B+下でワープという特殊操作も備わっており、当時としてはかなり多機能な部類に入る。とはいえワープは諸刃の剣で、タイミングを誤ると地形に激突して即死することもある。敵は空中だけでなく地表や洞窟内にも出現し、ステージの途中には狭いトンネルや鍾乳石が待ち構える。上下の余裕が少ないうえ、スクロール方向を反転させると敵の配置も入れ替わるため、覚えゲー的な側面も強かった。
また、本作には「燃料制」が採用されている。被弾だけでなく、時間経過でもエネルギーが減っていくため、回復アイテムを拾うことが生命線となる。アイテムは青いカプセル(燃料全回復)や黄色のカプセル(一定時間無敵)、そしてコアラの形をしたボーナスキャラ(1UP)などが存在する。逆に、撃ってはいけない民間物や地形を破壊すると減点になる要素もあり、単純な撃ちまくりプレイでは高得点を狙えない。限られた燃料と集中力の中で、どこで攻めてどこで逃げるか――その判断力こそが問われる作品だった。
見た目は明るい宇宙背景と色鮮やかな敵キャラクターだが、実際のプレイ感は非常にストイックだ。自機の弾は遅く、敵の動きは速く、さらに敵弾は反射的に襲ってくる。火力を恒常的に上げるパワーアップもなく、常に同じ武装で生き残るしかない。少しでも気を抜けば、洞窟の入り口で燃料を失い、静かに墜落する。そんな緊張感の中で、徐々に手が慣れ、スピード調整と反転操作が噛み合ってきた瞬間の快感は格別だった。撃つ爽快さではなく、数秒でも長く生き延びるための“生存リズム”こそがこのゲームの核心である。
ステージをクリアしても終わりはなく、背景色が変わるだけで次のループへと突入する。敵の弾速や出現頻度が増し、緊張が途切れた瞬間に再びゲームオーバー。そうして無限に続くサイクルの中、プレイヤーはいつしか孤独な飛行者のような気分になる。タイトル「バルトロン」が意味するのは敵勢力の名だが、同時に終わりなき戦いの象徴のようにも響く。プレイヤーは宇宙を進むうちに、自分が何と戦っているのかさえ分からなくなる――そんな不思議な哀愁が漂う作品だった。
東映動画が手がけた数少ないファミコンソフトとしても貴重な存在であり、アニメ的な演出や独自の世界観への挑戦は、後の作品群に通じる試みだったといえる。決して華やかなヒット作ではなかったが、その硬派なデザインと孤高の雰囲気は、今なお記憶に残る一本である。
NAO:総評
弾速は遅く、敵は速く、背景はただ広い宇宙――この構図だけで勝負してくる潔さがある。火力は上がらず、燃料は減る。だからこそ一発ごとの重みが違う。スクロールを反転し、角度を合わせ、洞窟を抜ける。そこに“設計の冷たさ”と“リズムの快感”が同居している。終わりのないループを飛び続けるうちに、撃つことよりも、生き延びることそのものが目的へとすり替わっていく。短評「弾が遅い、敵が早い、背景は宇宙」は、まさにその哲学を言い当てている。
出典:NAONATSU:総評
名前の響きは勇ましいのに、遊ぶほど静かな孤独が残る。洞窟を抜けるたびに燃料が減り、宇宙の色が変わっても敵は止まらない。コアラのボーナスを見つけた瞬間、思わず安堵の息が漏れる。そうやって小さな救いを拾いながら続く飛行は、どこか人生の縮図のようだ。結局、派手な演出も勝利の余韻もない。ただ、一秒でも長く飛び続けることが目的になる。名前からは想像できない哀愁――それがこのゲームの正体であり、あの無音の宇宙にこそ“バルトロン”の心がある。
出典:NATSU📘 説明書資料(バルトロン [TDF-BT])
説明書:Internet Archive 所蔵版(バルトロン [TDF-BT])
※Baltron [TDF-BT](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します

















































発売日:1986/03/19|価格:4900|メーカー:東映動画|ジャンル:シューティング
NAO: 弾が遅い、敵が早い、背景は宇宙。
NATSU: 名前からは想像できない哀愁が漂う。