エピソード
トリビア
1986年12月23日、アスキーからファミリーコンピュータ向けに発売された『コスモジェネシス』は、定価5300円、コクピット視点の三次元シューティングでありながら、その本質は「航行の段取り」に集約される戦略級の宇宙戦記である。海外では『STAR VOYAGER』として展開され、企画段階では『3Dウガウガ』という、後の硬派な仕上がりからは想像もつかない仮題で検討されていた。舞台はスパイラル銀河のコスモステーション・ノア。難民を収容したこの拠点を、敵勢力モロック・ワードライバーの艦隊から守り抜くという、一切の妥協を排した設定が置かれている。
計器と座標:戦略シミュレーションとしての宇宙
本作を単なるシューティングゲームと定義するのは誤りである。ゲームの手触りを決定づけるのは、10x10の区画で管理されたマップ画面と、そこを渡り歩くための「ワープ」の挙動に集約される。開始のたびに星団の配置がランダム化されるため、プレイヤーは毎回異なる宇宙の様相と向き合うことになる。ただし、プレイヤー機とコスモステーション・ノアの初期位置といった基本ルールには一定の例外が明記されており、これが戦略の起点となる。目的地への航行は座標指定によって行われるが、ここでの「ワープ」は決して安楽な移動手段ではない。Bボタンを押し続けて必要なワープ回数を蓄積し、移動を開始するが、ワープ中は極めて針路がぶれやすい。目的地から外れぬよう、計器のメーターを凝視しながら補正を加える操作は、ドッグファイト以上に「操縦のリアリティ」をプレイヤーに突きつける。戦闘においても、単に敵機を落とすだけでは不十分である。母船を破壊しない限り敵の増援は止まらず、最終的に母船を仕留めるか、あるいは撤退するかという冷徹な決断が常に求められる。
故障と修理:生命維持装置という名の「死の予感」
本作の緊張感を極限まで高めているのは、詳細に分かたれた部位破壊の概念である。被弾によりエンジン、レーダー、武器といった機能が次々と不調をきたすが、中でも生命維持装置の故障は致命的である。この装置は、唯一の母港であるコスモステーション・ノアでしか修理が認められないという厳しい縛りが存在する。この制約が、広大な宇宙のどこにいても常に「母港への距離」を意識させる、重苦しい帰還の義務を生んでいる。また、敵艦隊はただ待機しているのではなく、道中の資源基地を順次破壊し、プレイヤー側の資源点を削っていく。どの順番で敵を潰し、どのタイミングで補給基地に立ち寄るか。この優先順位の構築こそが攻略の主題であり、プレイヤーの知性を試す装置となっている。惑星に寄り道をすればレーザーやシールド、ワープ性能の強化アイテムを得られる可能性があるが、同時にブラックホールやアステロイド帯といった、迷い込むだけで絶望的な状況を招く危険区画も隣り合わせで存在する。勝利は艦隊の全滅と帰還によってのみもたらされ、拠点の破壊や燃料切れ、あるいは孤独な宇宙死といった複数の敗北条件が、常にプレイヤーの背後を脅かしている。
開発と音楽:アスキーが描いた「苦い宇宙」の記憶
制作面のトリビアとして、開発元がアスキーであることに加え、本作はMobyGames等のデータベースにおいて、ディレクター、プログラマー、そして音楽担当のクレジットが詳細に記録されている。音楽を担当したのは荻原光徳である。本作の楽曲は、ゲーム内容が冷たく苦いものであるのに対し、驚くほど美しく、叙情的な余韻を引く。この「体験の苦みと音楽の美しさ」の乖離こそが、本作をプレイした者の胸に深く刻まれる要因となっている。宣伝展開においても、発売半年前の1986年6月に雑誌『LOGiN』へ広告が掲載されるなど、アスキーらしい先鋭的なプロモーションが行われた形跡が残っている。撃つ快感よりも、計器盤の数字と手順の正確さによって緊張を構築する設計は、当時の家庭用ゲーム機が未だ見ぬ「新しい遊び」を模索していた時代の空気そのものである。スター(希望)に届かぬかもしれない航路であっても、計器を信じて飛び続けるしかないという、静かな諦観と挑戦の感触。それが、コスモジェネシスという作品の最後に残る、本質的な手触りであると言い切れる。
NAO総評
おとぎ話ではなく、計器盤の数字と矢印が主役の宇宙だ。アスキーがファミコンで試みたのは、撃つ気持ちよさより先に、座標と燃料と故障の面倒を背負わせる設計であった。手順が噛み合う一瞬だけ、本物の操縦をしているという錯覚が生まれる。この「冷たい理屈」にこそ中毒性があり、一度ハマれば、あの孤独なコクピットへ戻りたくなる。宇宙とは派手な戦場ではなく、管理と決断の連続であることを教える、極めて硬派な一本だと言い切れる。
出典:NAONATSU総評
宇宙に出ると孤独で、でもだからこそ目が離せなくなる。行き先を決めてワープを溜めて、少しでも針路がずれたら必死に計器を戻す。惑星や基地に寄って準備を整えても、敵の影が迫れば一気にすべてが足りなくなる。だからこそ、ボロボロになりながらコスモステーションに帰還できたときの安堵は、何物にも代えがたい。荻原さんの音楽が引く余韻が、最果てまで飛び続けた自分への報酬みたいに胸に響く。厳しくて静かな、冬の夜にふさわしい記憶の一本である。
出典:NATSU
📘 説明書資料(コスモジェネシス[HSP-06])
説明書:レトロゲームの説明書保管庫(コスモジェネシス[HSP-06])
※cosmo-genesis[HSP-06](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet
※レトロゲームの説明書保管庫様による保存資料です。権利は各社に帰属します。












発売日:1986/12/23|価格:4900円|メーカー:アスキー|ジャンル:シューティング
NAO: スターに届かぬ航路、それでも飛び続けるしかない。
NATSU: 音楽は良かった…それだけは覚えてる。