エピソード
トリビア
1985年12月5日、ポニーキャニオンから発売された『ルナーボール(Lunar Ball)』は、月面をモチーフにしたビリヤード風テーブルゲームである。アメリカでは「Lunar Pool」としてKonamiが販売を担当しており、日本版もそのデザインを踏襲した。ルールはシンプルで、画面上の複数の球をキューで突き、すべてをポケットに落とせばクリア。全60面の構成で、面が進むごとにテーブル形状や摩擦、重力のかかり方が変化していく。タイトルに「Lunar(月面)」とあるように、ボールが滑るように動き、軌跡が月の重力を思わせる独特の手触りを持っていた。
ゲーム画面は非常にミニマルで、球体とテーブルの色調だけが静かに変化していく。派手なアニメーションもなく、キャラクターも登場しない。音楽も短いループメロディと、打球音・入球音のみ。だがその無機質さこそが“ルナーボールの世界”を形成していた。操作は単純ながらも、角度と強さの加減によって結果が大きく変わるため、正確なコントロールと反射の計算力が求められた。やればやるほど、偶然が奇跡に変わる。狙い通りのショットが決まったときの快感は、派手な演出がなくても充分すぎるほどに脳を刺激した。
難易度のバランスも絶妙で、1ステージあたり数秒で終わるものから、何十回も試行錯誤しなければクリアできないものまである。物理法則のような摩擦設定は面ごとに微妙に異なり、ボールの動きに予測不能な“浮遊感”が加わっていた。この不確かさが、逆にプレイヤーを飽きさせなかった。60面をすべてクリアするには根気と集中力が必要で、気がつけば深夜になっている。特に土曜の夜、一人で遊ぶのにぴったりのテンションだったという証言も多い。
当時のファミコン市場では、キャラクターやストーリー性のあるゲームが主流になりつつあり、こうした“淡白な思索型タイトル”は商業的に目立たなかった。しかし、その潔さを“媚びない”と評するプレイヤーもいた。派手なパワーアップも、救済措置もない。ゲームは常に淡々と結果を突きつける。上手くいけば歓喜、失敗すれば無音のまま再挑戦。それだけ。だが、そのストイックさが、大人になってからの再プレイでも通じる普遍的な心地よさになっている。
特筆すべきは、その“静寂のデザイン”にある。色味は緑、紫、青など数パターンしかなく、ボールの動きがテーブル上の幾何学模様の中を滑るように漂う。その光景はどこか催眠的で、現代のミニマルアートに通じる美しさがある。偶然のリズムで響く効果音の連なりが、アンビエント音楽のように感じられたという声もあった。BGMが耳に残るというより、無音の間(ま)が印象に残る。その余白の美学が“ルナーボール体験”の本質だった。
海外版『Lunar Pool』では、テーブルの摩擦をプレイヤーが自由に調整できる機能もあり、設定次第では月面どころか“氷上”のような滑り方にもなった。結果として、アクションゲームのような反射神経と、将棋のような読みの両方を要求される知的娯楽に仕上がっていた。カラフルなキャラクターも、ストーリーも、報酬もない。だが、スコアを少しずつ更新していく過程こそが“物語”だった。
“誰にも媚びない静寂のビリヤード”。
それが『ルナーボール』の正体である。子どもの頃は地味だと感じていた人も、大人になってもう一度プレイすれば、その奥に潜む冷たい静けさと緻密な設計に気づくだろう。月面で打ち合うような孤独な時間、それがこのゲームの最も贅沢な部分だ。NAO:総評
これはBallか?Poolか?——いや、月面で転がる思想だ。ルールも演出も、削ぎ落とせるだけ削ぎ落とした結果、残ったのは“打つ”という行為そのもの。構え、角度、力加減——それだけで夜が更けていく。どんな派手なエフェクトより、沈黙の打球音が心に残る。客に媚びない孤高の設計。無音の宇宙に響く一撃は、今もなお美しい。
出典:NAONATSU:総評
地味だけど、止められない。もう一面、あと一球、それを繰り返してるうちに夜が明ける。60面全部クリアしたはずなのに、また最初からやりたくなる。ボールの滑り方、角の跳ね返り、ちょっとしたズレが奇跡になる。BGMはほとんど無いのに、静けさの中に音がある気がした。ルナーボールは、時間を盗む魔法みたいなゲームだった。
出典:NATSU📘 説明書資料(ルナボール [PNF-LB])
説明書:Internet Archive 所蔵版(ルナボール [PNF-LB])
※Lunar Ball [PNF-LB](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します

















































発売日:1985/12/5|価格:4900円|メーカー:ポニーキャニオン|ジャンル:テーブル
NAO: これはBallか?Poolか?答えは月面で聞け。
NATSU: 見た目地味だけど、時間泥棒ゲーム認定 全60面。