タッグチームプロレスリング

エピソード
トリビア
1980年代半ば、プロレス人気は空前の盛り上がりを見せていた。テレビではゴールデンタイムに試合中継が放送され、ジャンボ鶴田や長州力といったスター選手が子供たちのヒーローとなっていた。そんな時代に登場した『タッグチームプロレスリング』は、家庭用ゲーム機で“プロレスの試合運び”を本格的に再現しようとした意欲作だった。もともとは1983年にアーケードで登場した『ザ・ビッグプロレスリング』(開発:テクノスジャパン/発売:データイースト)を基にしており、ナムコがファミコン版として移植・販売したものだ。開発にはSakata SASが関わっていたとされ、ナムコタイトルの中でも異色の存在である。
プレイヤーは「リッキーファイターズ」またはCPU側の「ストロングバッズ」に属し、タッグを組んで相手をリングに沈めるのが目的だ。試合の基本はシンプルで、相手と組み合った瞬間に“技メニュー”を素早く選択し、発動を狙う。ボタン連打ではなく、リズムと反射神経で技を選ぶ方式が斬新だった。バックドロップ、ボディスラム、卍固め、サソリ固めといったおなじみの技に加え、キャラクターごとの“相性技”も存在しており、どの相手にどの技が決まるのかを覚えていくのも醍醐味だった。見た目以上にシビアなタイミングが求められ、うまく決まったときの快感は格別だった。
もう一つの見どころは、合成音声による実況演出である。「ワン、ツー、スリー!」とレフェリーがカウントする声は、当時のファミコンでは珍しい“しゃべるゲーム”として話題になった。音質こそ粗いが、少年たちの耳には衝撃的であり、「これがテレビの試合みたいだ!」と感じたプレイヤーも多かったという。場外乱闘では20カウント制が採用され、リング外での駆け引きが熱い。投げ飛ばしてリングアウトを狙うか、タッグ交代で体力を温存するか――その判断が勝敗を左右した。タイトル画面のドット絵レスラーたちが力強く見えたのも、時代の勢いそのままの熱量があったからだろう。
ゲームデザインは当時としてはかなり実験的で、アクションよりも“駆け引き”や“リズム”を重視している。レスラー同士の組み合いをボタン連打で決めるのではなく、タイミングで勝敗を分けるスタイルは、後のプロレスゲームに影響を与えた。特に、技名が画面に表示される演出や、観客の歓声を模した効果音など、演出面での工夫が光る。とはいえ、ゲーム性はシンプルで、連続して勝利すると同じ相手が再登場するループ仕様。現代の視点では単調にも感じられるが、当時のファミコンの表現力でプロレスの臨場感を出した点は高く評価されるべきだ。
また、海外版タイトル“Tag Team Wrestling”で登場したチーム名「Strong Bads」は、後にアメリカのウェブアニメ『Homestar Runner』に登場する人気キャラ“Strong Bad”の名前の由来になったことでも知られている。つまり、このファミコンソフトが文化的に“二次的影響”を与えた数少ないプロレスゲームというわけだ。日本ではナムコブランドのもとでリリースされたため、他の同社スポーツシリーズと比べるとやや地味な印象もあるが、ファミコン黎明期における“スポーツ表現”の礎を築いた功労者といえる。
さらに興味深いのは、当時ナムコが実施したプレゼント企画で配布された非売品「スペシャル版」の存在である。これはわずか600名の当選者に郵送された特別カートリッジで、パッケージやロム内容に差異があることが確認されている。登場するキャラクターやBGM、さらには技の掛け方までも違いが見られ、ファンであれば喉から手が出るほどの“お宝”とされる一品だ。コレクターの間では“幻の一本”として知られ、現在も実物を所持するファンはごくわずか。ナムコがファンとのつながりを重視していた時代を象徴する逸話として、今も静かに語り継がれている。
振り返れば、『タッグチームプロレスリング』は派手な演出よりも“試合運びのリズム”で勝負したゲームだった。場外乱闘こそが一番の見せ場であり、相手を鉄柵に叩きつけてからリングへ戻るスリルは、当時の少年たちを夢中にさせた。単純な操作の中に、プロレスの“呼吸”を感じ取れる――そんな、今見ても不思議な完成度をもつ作品である。
NAO:総評
量産の先に幻を置いたナムコの発想は、まるでリング外から観客席まで巻き込むような仕掛けだった。通常版の完成度に満足せず、わずか600本の“スペシャル版”を送り出したのは、プロレスが“観る”ものでなく“参加する”娯楽だった時代の反映だ。合成音声、技の相性、そして場外乱闘。どれも当時の技術限界を押し広げる熱意の結晶だった。つまりこの作品は、単なるゲームを超えて「ファンが主役になる」瞬間を記録した、1980年代ナムコらしい挑戦の象徴だった。
出典:NAONATSU:総評
もしあの頃、応募ハガキを出していたら――そんな想像を今もしてしまう。600人だけが手にした“スペシャル版”には、確かに夢の続きがあったのだろう。リングで技を決めた瞬間、声が出るほど嬉しかった。音も荒く、ドットも粗いけれど、その熱気だけは本物だった。技名を叫び、相棒と交代し、カウント20を超えてもあきらめない。そんな記憶が、プロレスという遊びの根源を教えてくれる。あの時代のファミコンは、小さなカートリッジの中に“青春”を丸ごと閉じ込めていたのだ。
出典:NATSU📘 説明書資料(タッグチームプロレスリング [NPW-4900])
説明書:Internet Archive 所蔵版(タッグチームプロレスリング [NPW-4900])
※Tag Team Pro-Wrestling [NPW-4900](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属しますタッグチームプロレスリング スペシャル版
出典:
















































発売日:1986/04/02|価格:4900|メーカー:ナムコ|ジャンル:スポーツ
NAO: 場外乱闘こそプロレスの華。
NATSU: 技の名前がなんか全部強そう。