エピソード
トリビア
1988/02/26にコナミから5500円で発売された鉄腕アトムは、ジャンル表記こそアクションだが、触った最初の印象は少し違う。アトムなら空を飛び、悪を追い、気持ちよく進めると思って手を伸ばすほど、まず迷子になる。画面に出てくる相手を殴っても倒すだけでは終わらず、言葉を吐かせて道具の場所を探せと言われたり、どこかを殴れと示されたりする。目的が見えないまま右へ走るだけの遊びに慣れていると、ここで立ち止まってしまう。説明も演出も淡々としていて、何をすれば展開が動くのかは、殴って得た断片と自分の試行錯誤で埋めるしかない。初見は、敵よりも目的のほうが見えない。子どものころ、せめて飛ばせてくれと泣いた記憶が出てくるのは、派手な必殺よりも手順の理解が前に出る作りだからだ。
システムの芯は、走る、跳ぶ、殴るに加えて、飛行と資源管理が絡むところにある。飛行はロケットブーツのような扱いで、横方向の連続3回ジャンプのあと上を入れると短い時間だけ空へ出られるが、すぐ熱を持って落ちる。飛べるのに飛び続けられない。しかもエネルギーはウランとして扱われ、時間でも減り、ダメージでも減る。ウランが尽きそうになると、お茶の水博士をいつでも呼んで補給してもらえる。操作はしゃがんだ状態でアクションボタンを押す形で、頼れるのに頼り切れない。博士側の持ち分にも限りがあり、無限の救済にはならない。そこでコインがもう1つの命綱になる。集めたコインは、尽きたあとに備える形でウランの足しにできるため、進行と同時に備蓄の発想が必要になる。敵はすり抜けられることも多いのに、武器の攻撃は一撃で終わる場面があり、飛行の失敗や地形の引っかかりがそのまま損失になる。全10のステージは、単純なゴール到達ではなく、鍵や特別な品をそろえる課題や、特定の場所を殴って仕掛けを動かす課題が混ざる。ベルを使って耳に入った音をなぞるように進行を開く場面まであり、アクションの皮をかぶった小さな謎解きが連続する。勝負がつくのは反射の強さというより、殴って情報を集め、飛ぶべき瞬間にウランを残す判断だ。少しの手順違いが戻り道の長さに直結し、間違いが目に見えるまで時間がかかる。短い飛行が決まるだけで景色が変わる。その小さな成功が、ずっと引っ張る。だからこそ、正解にたどり着いた瞬間は、アトムが強くなったのではなく自分の理解が増えた感覚になる。
裏側を知ると、この癖は偶然ではない。開発はホームデータが担当し、のちに魔法として知られる会社につながる。コナミが版権を預かり、アトムという顔を前面に出しながら、実際の中身は謎解き要素が強い課題達成型のアクションへ寄せている。盗難事件を追う導入から始まるのに、進めると急にアトランチスのような場所へ放り込まれ、宗教めいた言葉や謎の人物が出てくる構成は、原作の雰囲気を期待した人ほど戸惑う。海外向けの発売や翻訳も行われず、日本のファミコンだけで完結したのも、この独特さを増幅させた。文字はかな中心で、意味が分からなくても動ける一方、どの言葉がヒントでどれが脱線なのかを選別しないと進めない。難度の高さが語られるとき、一撃で終わる作りと、この目的の隠し方がセットで挙げられるのは納得できる。手順がつながった途端に短い区間を一気に走り抜けられる設計なので、上達の体感が急に跳ねるのも特徴だ。
印象に残るのは、この不親切さがただの意地悪で終わらず、少しずつ救いも用意している点だ。敵を殴って出る言葉は、ときどき有用で、ときどき脱線していて、真面目なヒントと笑ってしまう供述が同居する。コインを貯め、博士の補給を受け直して再挑戦できる流れがつかめると、ようやくゲームがこちらに歩み寄ったように感じる。飛行が決まって一段上に届いた瞬間や、探し物がそろって道が開けた瞬間には、アトムの強さではなく自分の理解が勝った手応えがある。だからこそ、アトムの名を借りただけの凡作だったと感じた衝撃すら、毎晩の練習と一緒に残り続ける。電源を落としても、次の夜に同じ場所へ戻り、同じ失敗で笑えたり悔しがれたりする。その反復の中で、友だちと手順を教え合ったり、雑誌の短いヒントにすがったりした記憶まで含めて、この作品は当時の遊びの体温として残る。1988年の空気を吸い込んだまま、鉄腕アトムは、ひとつの時代の硬さとして手のひらに残る。
NAO総評
鉄腕アトムなら空を飛んで正義を見せてくれる、と信じた子ほど、この作品の飛行が渋いのが刺さる。せめて飛ばせてくれと泣いた記憶は、操作の偶然ではなく設計の意志だ。3回連続ジャンプのあと上で短時間、熱で落ちる。しかもウランが時間でも減り、博士の補給にも限りがある。正義の物語より、手順と資源を覚えて突破する修行が主役だ。キャラゲーに甘さを求めると裏切られ、だからこそ昭和末期の家庭用らしい硬さが今も強く残る。
出典:NAONATSU総評
アトムの名前なら安心して遊べると思っていたのに、画面の雰囲気も展開もどこか不思議で、アトムの名を借りただけの凡作だったと感じてしまう衝撃が残る。それでも毎晩、ウランが減るたび博士を呼び、3回ジャンプの癖を体で覚えて、熱で落ちてもまた試した。ヒントらしい言葉と意味不明な言葉が混ざるのも懐かしい。コインを集めてやり直せる仕組みが、少しだけ救いになってくれた。分からなさと悔しさまで、当時の遊びの温度として心に残る。
出典:NATSU
📘 説明書資料(鉄腕アトム [RC827])
説明書:Internet Archive 所蔵版(鉄腕アトム [RC827])
※Tetsuwan Atom [RC827](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet
※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照。権利は各社に帰属します。












発売日:1988/02/26|価格:5500円|メーカー:コナミ|ジャンル:アクション
NAO: せめて飛ばせてくれ…と子供の頃に泣いた記憶
NATSU: アトムの名を借りただけの凡作だった衝撃作