エピソード
トリビア
1985年7月、サン電子(サンソフト)がファミリーコンピュータ参入第1弾として発売した『スーパーアラビアン』は、アーケード版『アラビアン』(1983年)を家庭用向けに再構成した固定画面アクションである。プレイヤーはアラビアの王子となり、さらわれた姫を救出するため、海や洞窟、宮殿といった4つのステージを駆け抜ける。各ステージに配置された壺をすべて回収するとクリアとなり、画面右上に記された文字を順に取るとボーナスが得られる。この仕掛けが、後年の「英単語を揃えてボーナス」系システムの先駆けとなった。
ファミコン版では、背景やBGMがアーケード版よりもカラフルかつ華やかに変更されており、サウンドチップの制約の中で独特のリズムを作り出している。また、敵をキックで3体以上巻き込むと短時間の無敵状態になるなど、アーケード版にはなかった要素も追加。単純な移植にとどまらず、ファミコン向けにアクション性を調整した“家庭用リメイク”と言える。
本作で特筆すべきは、説明書12ページに記された「SUN SOFTクイズ」イベントの存在だ。各レベル4ページ目をクリアすると、画面上に隠し文字が現れ、それらを順番に集めると一つの単語になるという仕掛け。この単語をハガキに記入して応募するという形式で、正解者には「ビデオデッキ」「MSXパソコン」「ヘッドホンステレオ」「オリジナルTシャツ」といった豪華賞品が先着順で進呈された。公式説明書・同梱チラシには応募要項が明記されており、初期ファミコン作品としては非常に珍しい“ゲーム連動クイズキャンペーン”であった。完成する単語は「KANHAROO(カンハロー)」で、これは参入第2段「ルート16ターボ」に登場する悪の組織の名称だが、次作に直結する伏線的存在だったと考えられる。
当時、パッケージ同梱の応募ハガキは珍しく、ハガキを送ると「サンソフト・クイズ係」からお礼状が届いたという証言も一部で確認されている。応募は先着制で、初期出荷分の説明書にしかクイズ欄が載っていなかったとも言われており、まさにファミコン黎明期の試行的な販促施策だった。後年、『いっき』や『アトランチスの謎』などサンソフトの代表作へと続く礎を築いた意味でも、『スーパーアラビアン』は同社の出発点を象徴する作品といえる。
ゲームとしてはやや難度が高く、1ステージ目から落下死や敵との接触が頻発するため、テンポよく進めるにはコツが必要。しかし、浮遊感のあるジャンプ操作や、壺の文字を揃えるちょっとしたパズル性、絨毯に乗る演出の高揚感が相まって、遊ぶたびに不思議な中毒性を感じさせる。地味ながらも、後のサンソフト作品に通じる“挑戦的な設計思想”が随所に見られる一本である。
NAO:総評
ファミコン初期のサンソフトには、妙に“ひねり”があった。単にアーケードを移植するだけじゃなく、どこかに「意味」を仕込む。それが『スーパーアラビアン』の壺文字であり、次作『ルート16ターボ』への伏線としての“カンハルー”だったんだろう。子どもたちはきっと、何の意味だろうと首をひねりながらハガキを送ったに違いない。カンガルーと書いて送ったちびっ子もいただろう。今見ると、たった数週間の発売間隔で連動企画を成立させたこの勢いにこそ、80年代前半のゲーム会社の「勢いと余白」を感じる。カラフルな砂漠のステージに、そんな裏の熱が詰まっていたとは、誰も知らなかったはずだぜ。
出典:NAONATSU:総評
壺を拾いながら文字をそろえる——それだけの単純な遊びなのに、あの頃の自分にはものすごく冒険に感じられた。
「KANHAROO」という謎の単語も、友だちと首をかしげていたけど、いま思えば次のゲームにつながる秘密の合言葉だったのね。
サンソフトがファミコンに飛び込んだばかりの夏、全クリしてハガキをポストに入れた子どもたちがいたことを思うと、ちょっと胸が熱くなる。
派手じゃなくても、ゲームと現実がゆるくつながっていたあの頃のワクワク感——それこそが“懐ゲー”の原点かもしれないわ。出典:NATSU📘 説明書資料(スーパーアラビアン [SS1-4500])
説明書:Internet Archive(スーパーアラビアン [SS1-4500])
※Super Arabian [SS1-4500](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction_Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します

















































発売日:1985年7月25日|価格:4500円|メーカー:サン電子
NAO: 魔法の絨毯に乗れたときの嬉しさと、すぐ落ちる切なさ。
NATSU: スピード感あるジャンプとパズル要素の絶妙なバランス。