エピソード
トリビア
1985年11月21日、ポニーキャニオンから発売された『おにゃんこタウン』は、ファミコン初期に登場した数少ない“猫が主人公”のアクションゲームである。開発はソフトプロが担当し、パッケージの愛らしさとは裏腹に、プレイヤーを容赦なく追い詰める難度の高さで知られている。物語は、町中に散らばった子猫を母猫が救出するという単純な設定だが、マップは車が走り、犬が徘徊する危険な街路で構成されており、優しい見た目とは裏腹に“やたら物騒な世界”だった。
主人公の母猫は、子猫を抱えた状態で敵や車に触れると即ミスというルールに縛られており、敵の動きを読んで素早く逃げる判断力が求められる。敵として登場する「ドッグ」は、まるで執念を燃やすかのように追跡してきて、プレイヤーは逃げるか、あるいは“マンホール”を開けて犬を落とすことでしか危険を回避できない。この「敵を落とす」というシステムは一見コミカルだが、実際にはかなりシビアなタイミングが要求され、当時の子どもたちにとってはトラウマ級の難易度だった。タイトルの“おにゃんこ”という語感の柔らかさと、命がけのゲームバランスのギャップが、後年のプレイヤーに奇妙な印象を残した理由でもある。
この作品は「平和な街を舞台にしたサバイバル劇」という独特の構造を持っており、ステージ内では人間の存在がほとんど描かれない。車は自動で走り続け、犬は理不尽なまでに執拗、町全体が無人のようで、プレイヤーはどこか不気味な孤独感を覚える。そのため一部では、“社会風刺的な無機質さ”や“動物視点のパニック劇”として再評価する声もある。特に海外のレトロゲームコミュニティでは、「かわいいグラフィックでプレイヤーに倫理的な不安を突きつける作品」として紹介されることもあるほどだ。
また、タイトル名の「おにゃんこ」は、1980年代半ばに一世を風靡した女性アイドルグループ「おニャン子クラブ」を意識したものと当時から噂されていた。実際にゲーム内容とグループの関連はまったくないが、発売時期がアイドルブームの真っ只中だったため、「子ども向けに見せかけたネーミング戦略」だった可能性が高い。パッケージや広告には“おニャン子”との直接的な関連表記はないものの、語感の妙が購買層を広げる効果を持っていたのは確かである。
ゲームデザイン面では、操作のもっさり感と敵AIの異様な執念がプレイヤー心理を翻弄する。救出対象の子猫を抱えてからの帰還ルートが極めて長く、ミスをすると最初からやり直しという構成が、プレイヤーの忍耐力を試した。にもかかわらず、グラフィックは淡いパステル調で、BGMも妙に明るい。この“和やかさと絶望の同居”が、当時の少年少女に強い印象を残したとされる。つまり『おにゃんこタウン』は、ファミコン初期の「子ども向け=優しいゲーム」という固定観念を裏切った作品だったのだ。
そしてもうひとつの特徴は、“リプレイ性の高さ”である。単調に見えるが、ステージごとに敵の配置やAIが微妙に異なり、ルート取りを最適化する過程に独特の中毒性がある。多くのプレイヤーが「つまらないのに、たまにやりたくなる」と語るのはそのためで、理不尽さを乗り越えた先にほんの少しの達成感がある。この“ちょっとだけやりたくなる”という感覚こそ、ファミコン黎明期に特有の中毒的ゲーム哲学であり、『おにゃんこタウン』はその典型例として語り継がれている。
NAO:総評
可愛らしい見た目に反して、この町は妙にきな臭い。暴走する車、容赦ない犬、そして子を抱えて逃げ回る母ネコ。穏やかな日常の裏で命が軽く扱われる世界は、どこか現実の社会を映しているようでもある。ドットの温もりに紛れて、静かな暴力が息づいている。ファミコン黎明期の無邪気さと残酷さが同居した、奇妙に記憶に残る一本だ。
出典:NAONATSU:総評
どう見ても平和なタイトルなのに、いざ始めると町が物騒すぎる。子猫を抱えて逃げるたび、心臓が少しだけ早くなる。やられてもついリセットして、また同じ路地へ戻っていく──そんな繰り返しが、いつの間にか心地よかった。大して派手でもないのに、なぜか遊びたくなる。不器用で優しいあの時代のファミコンらしさが、ぎゅっと詰まっている。
出典:NATSU📘 説明書資料(おにゃんこタウン [PNF-OT])
説明書:Internet Archive 所蔵版(おにゃんこタウン [PNF-OT])
※Onyanko Town [PNF-OT](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します

















































発売日:1985/11/21|価格:4900円|メーカー:ポニーキャニオン|ジャンル:アクション
NAO: ネコが主役の町って平和そうで、地味にヤバい世界観。
NATSU: おにゃんこ言いたいだけで作った感。町がやたら物騒。