ボンバーマンシリーズ
エピソード
トリビア
1985年12月20日、ハドソンはファミリーコンピュータ版『ボンバーマン』を発売した。価格は4900円。オリジナルは1983年にPC用として登場した『爆弾男』であり、本作はその家庭用リメイクにあたる。開発はプログラマー中本伸一、音楽は竹間淳。プレイヤーは地下爆弾工場で働くロボットを操作し、地上へ脱出して「人間になる」という夢を追う。無機質な設定に哀愁を帯びたこの物語は、当時のアクションゲームとしては異例の“哲学”を秘めていた。50の迷宮を爆弾と知恵で突破し、自由への道を切り開く——それがこの作品の骨格である。
ステージは横2画面ほどの固定マップで、ソフトブロックを爆破して出口を探し、全敵を倒すとクリア。出口やアイテムを誤って爆風で壊すと、ペナルティとして新たな敵が現れる。安全策を取らずに欲張ると痛い目を見る、という「リスクと欲望の法則」が設計思想に組み込まれている。リモコン爆弾や火力強化アイテムを手に入れるたびに攻撃範囲は広がるが、その分自爆の危険も増す。強くなればなるほど危うくなるこの構造は、人間が力を得るほど破滅に近づく寓話のようで、単なる爆破ゲームに深い心理的要素を与えている。
アイテムには移動速度を上げるブーツ、爆弾や壁を通り抜けられる能力、無敵状態のファイアーマンなどがあり、取り逃すと二度と出現しないものも多い。4面限定のブーツを逃すと以降の追尾敵が脅威となり、火力拡張を得ても扱いを誤れば自ら焼ける。ここに“制御なき成長”の危うさが潜んでいる。敵の種類も豊富で、壁を通過するコンドリア、直線追尾するパース、時間切れで現れるポンタンなど、行動パターンの違いが戦略性を高めている。時間制限に達すると高速で襲い来るポンタンが無数に出現し、プレイヤーを追い立てる緊張演出はシリーズの伝統となった。
各面の背景や効果音も特徴的で、単調な迷路にわずかに残響する電子音のBGMが、孤独な脱出劇の空気を強調している。爆弾設置の間隔や爆風の長さも正確に調整されており、わずかなズレで自滅することもある。だがその危うさが、成功時の快感をいっそう高めた。自ら置いた爆弾が壁を破壊し、新たな通路を切り開く瞬間は、“破壊が創造に繋がる”というハドソン的理念を感じさせる。敵を倒す快楽と同時に、爆風の制御を学ぶ過程こそがゲームの核心だった。
全50面を突破すると、ロボットが地上に脱出して人間へと変わるエンディングが流れる。暗い工場で繰り返される単調な労働から抜け出し、青空の下に立つ姿は、まるで産業社会を抜け出す人間の象徴のようだ。この展開は、ファミコン版『ロードランナー』への“前日譚”として設定され、同社作品群をつなぐ小さな世界観を形づくった。爆弾で敵を葬りながらも、自由を求めるという矛盾したテーマが胸を打つ。力を使いこなす者だけが自由になれる——その思想がシンプルなルールの中に潜んでいる。
また、本作には隠し要素も多く、特定条件で開発者・中本伸一の顔アイコンが出現したり、ハドソン他作品のキャラが現れたりするなど遊び心が随所に見られる。パスワードも当時としては先進的で、全20文字の英字コードでステージ再開が可能。中にはバグ面や無限残機を引き起こす“裏コード”も発見され、少年たちの間で秘密の共有として広まった。ファミコン黎明期における実験精神と職人技が凝縮された一本であり、シリーズの原点にして象徴的存在となった。
NAO総評
爆弾強化で調子に乗れば自爆、結局は己の欲深さを映す鏡だった。強くなるほど破滅に近づくこの構造は、力と制御の関係を見事に描く。火力やリモコンの拡張が万能感を生む一方、爆風に巻かれて倒れる自分の姿は、欲望に飲まれた人間そのものだ。ゲームを進めるほど、何を得て何を失うかを考えさせられる。最終面でロボットが人間になる瞬間、それは自由の獲得ではなく、危うい力を手にした存在の誕生を示している。ハドソンの哲学は、爆風の中にこそ宿っていた。
出典:NAONATSU:総評
ラストで人間になる夢を知り、ただの爆破ゲーム以上に胸が熱くなった。爆弾を置いては逃げ、強化しては自爆する。そんな失敗の繰り返しが、いつの間にか“間合いを読む”という学習に変わっていく。爆破の音が孤独なリズムに聞こえ、地下の闇が少しずつ光に変わっていくようだった。地上に出た瞬間、あのロボットの姿に自分を重ねた人も多いだろう。破壊の先に希望を見いだす——それが『ボンバーマン』という物語の本当の顔だったのかもしれない。
出典:NATSU📘 説明書資料(ボンバーマン [HFC-BM])
説明書:Internet Archive 所蔵版(ボンバーマン [HFC-BM])
※Bomberman [HFC-BM](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します




















































発売日:1985/12/19|価格:4900|メーカー:ハドソン|ジャンル:アクション
NAO: 爆弾強化で調子に乗れば自爆、結局は己の欲深さを映す鏡だった。
NATSU: ラストで人間になる夢を知り、ただの爆破ゲーム以上に胸が熱くなった。