バンゲリング帝国三部作
エピソード
トリビア
1986年6月26日、ジャレコが発売したファミコン版『チョップリフター』は、アップルII発の同名作(1982年、作者ダン・ゴーリン)を源流に持つ救出型横スクロール・アクションで、ファミコンでは全4ステージ構成、1面につき最大24名が囚われ、20名以上救出でクリアという“人命最優先”の指標がはっきり打ち出されている。プレイヤーは救難ヘリホークZを操り、収容所のバラックを破壊して人質を解放、着陸して機内に最大8人まで収容、出発地点の基地へ連れ帰って解放する。この「壊す→着陸→収容→帰投→解放」のループがゲーム全体の鼓動であり、ただ撃ち勝つのではなく、救出の手順を設計することこそが勝利条件に直結する。アーケード版(セガ、1985年)の派手な演出に比べると家庭用は表示密度が控えめだが、慣性の残る挙動と着陸の繊細さがもたらす緊張感は濃く、撃ち合いよりも“降りる勇気と降り方”が評価を分けるゲームに仕上がっている。
操作の肝は、ヘリの向き(左/右/前)を状況に応じて切り替えることだ。横向きでは対空・対地の斜め射撃、前向き(機首を画面手前)では地上火点を正面から押さえ込みやすく、着陸前に周囲の脅威を掃除できる。だが、ヘリには明確な慣性があり、速度ゼロに収束させてから静かに降ろさないと人質を誤って轢いてしまう。また、着陸中は被弾リスクが跳ね上がるため、着地点の選定→周辺掃討→短時間の収容→即離陸という“段取りの速度”が生存率と同義になる。燃料(FUEL)の概念も重要で、無策に滞空すると枯渇して墜落するが、救出して基地へ戻すごとに燃料が回復するため、救出の成果がそのまま継戦能力を押し上げる設計だ。つまり本作は、火力で押すのではなく、救助の回数と質を高めることでプレイが楽になるゲームであり、難しさの芯はいつも“攻撃”ではなく“運用”にある。
各面は砂漠→外洋→洞窟→都市と表情が変わり、戦車・固定砲台・戦闘機など水平・斜め・対地が複合する攻撃を浴びせてくる。面ごとに収容所の位置や帰投ルートが固定で、学習が進むほど何人乗せて戻るかの判断が洗練されていく。無理に8人満載を狙うより、危険地帯を跨ぐ前に4〜6人で一度帰るほうが安全、という“現場判断”も成立し、最短救出数20人の配分設計が腕の見せ所になる。印象的なのは、救われた人質のアニメーション——揺れる手、走ってくる足取り、ヘリが満席のときに手を振って待機する仕草までが、プレイの倫理的な圧を高めていることだ。誤爆や着陸ミスで命を落とさせてしまうと、単なる減点では済まない重みが残る。こうして本作は、当時の家庭用としては珍しい“救出ミッションの手触り”を前面に出し、ゲームの上達=救える命が増えるという構図を成立させた。
歴史的背景としては、オリジナルがブローダーバンドの代表作であり、世界観は『ロードランナー』『バンゲリングベイ』とつながる「バンゲリング帝国」系譜に連なる点が特筆される。セガのアーケード版が華やかなリメイクを果たし、そこから各機種版へ広がる中、ファミコンはジャレコ流の家庭最適化で“救出の段取り”を際立たせた。派手なエンディングは用意されず、1面あたり20人以上でクリア、4面を超えるとループというストイックな終わり方も、「次は何人、どう分けて運ぶか」という思考を自然に促す。結果として、“操作は難しいのにやめられない”という矛盾が正しく機能する。難所に挑むたびにより安全な降り方・より早い回収線が見えてくるからだ。救助という題材を数値目標と身体操作で貫き、攻撃的な気持ちに傾きがちな救出劇を、最後まで段取りの知性で支え切った——それが、1986年版『チョップリフター』の価値である。
NAO:総評
慣性の残る挙動と着陸の繊細さが、火力より段取りを優先させる仕組みになっていて、救出数=進行力に直結する。20人をどう分けて運ぶかという判断の積み重ねが、難しさよりも“やめられなさ”を生む設計だ。
出典:NAONATSU:総評
ひとり降ろすたびに胸の奥がふっと軽くなるのに、またすぐ迎えに行きたくなる。うまくなったぶん助かる命が増える感覚が嬉しくて、失敗のあとも自然と手が伸びる――救出がちゃんと物語になるゲーム。
出典:NATSU📘 説明書資料(チョップリフター [JF-08])
説明書:Internet Archive 所蔵版(チョップリフター [JF-08])
※Choplifter [JF-08](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します




















































発売日:1986/06/26|価格:4900円|メーカー:ジャレコ|ジャンル:アクション
NAO: 操作が難しいのに、なぜかやめられない。
NATSU: 救出ミッションの重みをファミコンで味わえる。