エピソード
トリビア
1985年7月18日にエニックスから発売されたファミコン版『ドアドア』は、パソコン版の名作を移植したアクションパズルであり、若き中村光一によるチュンソフト創業の原点として知られる。もともとは1983年、エニックスの「ゲーム・ホビープログラムコンテスト」に応募されたPC-8801版がルーツで、準優勝を受賞したことで製品化された。その後、PC-6001mkII版『ドアドアmkII』を経て、ファミコン版はその改良形をベースに家庭用として再構成されている。
プレイヤーは主人公「チュン君」を操作し、敵モンスターたちをドアの中に閉じ込めることが目的。ステージは固定画面構成で、全50面というボリュームを誇る。ドアは取っ手のある側からしか開かないため、敵の誘導や足場の位置取りを考える必要があり、単純なアクションにとどまらない「思考型パズル」の要素が際立つ。中村光一自身が「敵を倒す爽快感ではなく、整理して閉じ込める達成感を狙った」と語っており、ドアを利用したトラップの構造が後年の『かまいたちの夜』や『風来のシレン』といった論理的ゲーム設計の萌芽として注目されている。
各ステージには異なるBGMが設定され、5面ごとに「テクノドアドア」や「演歌ドアドア」といったユーモラスなサブタイトルが表示される。これはPC-6001mkII版の演出を踏襲したもので、ファミコン移植時に容量を抑えながらも多彩な曲調を再現した点が評価された。プレイ中のBGMはチュン君を操作している間だけ流れる仕様で、静寂と音の切り替わりが独特の緊張感を生み出している。
モンスターの行動パターンにも個性があり、ナメクジ状の「ナメゴン」やクラゲ型の「インベ君」など、見た目は可愛らしいが動きには明確な規則性があり、プレイヤーはそれを理解して罠に誘導する必要がある。特に「オタピョン」はジャンプを模倣してくる難敵で、チュン君の動きを読むAI的な存在として多くのプレイヤーを苦しめた。敵をまとめてドアに閉じ込めるほど高得点を得られるため、単にクリアを目指すだけでなくスコアアタックとしての奥深さもあった。
また、ドアを半開きにして敵の出現タイミングをずらす「半ドアテクニック」や、画面端をワープして逃げる仕掛けなど、プログラム上の挙動を逆手に取った戦略性も人気を支えた。ファミコン版は当時としては珍しく、50ステージを通して徐々に難度が上昇する構成を採用しており、単純な繰り返しに終わらない構成力が高く評価されている。
本作の販売本数は約20万本に達し、エニックスのファミコン参入第1弾として成功を収めた。ファミリーコンピュータMagazineの1991年特集でも「キャラクターがかわいく、内容は手ごたえがある」と紹介され、パズル寄りアクションとして独自の立ち位置を築いた。さらに2008年のWii用ソフト『428 ~封鎖された渋谷で~』にもミニゲームとして復刻されており、チュンソフトの歴史を象徴する存在として今なお語り継がれている。
NAO:総評
「倒す」でも「奪う」でもなく、“閉じ込める”という発想が時代を先取りしていた。ドア一枚で敵の流れを制御する仕組みは、単純ながら恐ろしく洗練されていて、当時のPCプログラムからファミコン文化への橋渡しをした中村光一の才能が光る。かわいさと残酷さが同居するゲーム性は、後の『シレン』や『かまいたち』のような「思考するエンタメ」の源流そのものだ。80年代の「個人制作」の熱量が、画面の隅々から滲んでいる。
出典:NAONATSU:総評
最初は敵を閉じ込めるたびにただの快感だったのに、気づけば頭の中でルートを組み立てていた。ジャンプひとつのタイミングで全部が狂う、この緊張感がやみつきになる。チュン君の無表情な動きや、妙に静かなBGMも不思議と記憶に残る。ファミコン黎明期の無機質な画面の中に、どこか人間らしい温度を感じさせる作品。中村光一の“原点”という言葉が、いま見ても納得できる一作だった。
出典:NATSU📘 説明書資料(ドアドア [EFC-DR])
説明書:Internet Archive(ドアドア [EFC-DR])
※Door Door [EFC-DR](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction_Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します
















































発売日:1985年7月18日|価格:4900円|メーカー:エニックス
NAO: ドアで敵を閉じ込める発想が、当時としては超ユニーク。
NATSU: チュンソフトの原点。可愛いけど容赦ない。