松本亨の株式必勝学シリーズ
エピソード
トリビア
1988/02/18にイマジニアから9800円で出たこのソフトは、ファミコンの画面に株価ボードを持ち込んだ珍品だ。遊び始めた瞬間にまず迷うのは、いつものゲームのように冒険が始まらないことだ。画面の向こうで相場の時間だけが淡々と進み、買うか売るか決めないと今日が終わってしまう。メニューを開いて考えている間も分刻みで時刻が進み、午前8時30分に始まった1日は昼の休場をはさみながら夕方まで流れていく。週は月曜から金曜の5日だけ、月は4週という割り切った暦で2年分が用意されていて、のんびり眺めているだけでも期日が近づく。ゲーム機に投資指南をぶっ込む狂気、という感想が最初に出てくるのは自然で、当時の熱気と焦りがそのまま操作感になっている。
やること自体は一見シンプルで、株式の売買だけでなく、貯金や定期預金、信用取引、生命保険、不動産投資、中国ファンドといった選択肢が並ぶ。スタート資金は100万円で、最終日に資産総額1億円以上など複数の条件を満たすことが目標だ。主人公にはLE、HP、LPといった指標があり、相場の結果だけでなく日々の行動がそれらを上下させる。終盤に向けて資産総額を増やすだけでは足りず、条件を満たさないと不合格で終わる作りが、勉強している気分と同時に怖さを連れてくる。セーブは内蔵RAMへの自動保存が前提で、リセットを使ったやり直しにも罰が用意されているので、失敗した瞬間に過去へ戻る逃げ道が少ない。高くて買えず見ているだけで勉強した気分に、という記憶が残りやすいのも、値札の高さだけでなくこの容赦のなさが背景にある。
けれど救いもあって、数字の洪水に慣れてくると、毎日同じ場所を見るだけで相場の顔つきが少しずつ読めるようになる。月曜の始まり方、昼休みを挟んだあとの値動き、ニュースの一言で板がざわつく気配、そういう手触りがゲームの演出として用意されていて、十字キーが日課の道具に変わっていく。音楽にはスコットジョプリンのジエンターテイナーや、サティのジムノペディ第1番などの曲が使われているとされ、奇妙に落ち着く時間が流れるのもこの作品らしい。
裏側の面白さは、この異色企画が当時の文脈に結びついている点だ。監修とシナリオを担当した松本亨は、株価予想で人気を得て日刊ゲンダイに連載コーナーを持っていた経済評論家で、ゲームはその名をタイトルに掲げて本人が師匠として登場する。エンディングに到達すると暗号通信モードが開放され、日刊ゲンダイに掲載されていた暗号を入力して投資情報を聞ける仕掛けまで用意されていた。ゲームを終えたあとも新聞に目を向けさせる宣伝展開で、ソフト単体で完結しない当時ならではの遊びだ。スタッフ面では美術に漫画家の山科けいすけの名があり、クレジットでも松本亨が監修として明示される。評価面ではファミ通クロスレビューで26点を得てシルバー殿堂入りしており、奇抜さだけで片付けられない完成度が見える。続編も1989/03/31に発売され、シリーズとして展開された。一方で後年の公式な復刻や配信については、WikipediaとMobyGamesの公開情報からは確認できない。最後に残る余韻は、相場の数字を追う手つきが家庭用ゲームの遊び方そのものを一度崩してしまう感覚だ。テレビの小さな枠に、あの時代の欲と不安が押し込まれていて、遊んだ人の記憶にだけ妙に生々しく残る。
NAO総評
ゲーム機に投資指南をぶっ込む狂気が、1988年の熱と焦りをそのまま封じた教材みたいに見えるのが面白い。相場の時間が容赦なく進み、リセットで過去へ逃げる手も塞がれるから、遊びより修行の顔になる。新聞の暗号で情報を引き出す仕掛けまで用意したのは、メディアと娯楽が混ざり合った時代の象徴だ。9800円という値札も含めて、夢と不安が同居している。奇抜さだけで終わらず、当時の雑誌で評価が付いたのも少し皮肉だ。
出典:NAONATSU総評
子どもには高すぎて、店先で箱を眺めたり、友だちの家で画面を見ているだけで勉強した気分になったのを思い出す。数字だらけで難しそうなのに、時間が分刻みで進むから見ているだけでも落ち着かず、いつの間にか自分も板の動きに息を合わせている。失敗したら最初からになりそうで怖いのに、師匠の言葉や新聞の暗号の話にだけは夢があって、あの頃の背伸びした好奇心がふっと戻ってくる。景気の空気を家庭のテレビに運んだみたいで、少し大人になった気分だけが残る。
出典:NATSU
📘 説明書資料(松本亨の株式必勝学 [IMA-KB])
説明書:Internet Archive 所蔵版(松本亨の株式必勝学 [IMA-KB])
※Matsumoto Tooru no Kabushiki Hisshou Gaku[IMA-KB](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet
※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照。権利は各社に帰属します。














発売日:1988/02/18|価格:9800円|メーカー:イマジニア|ジャンル:シミュレーション
NAO: ゲーム機に投資指南をぶっ込む狂気の時代
NATSU: 高くて買えず、見てるだけで勉強した気分に