エピソード
トリビア
1985年12月19日、スクウェアが発売したファミリーコンピュータ版『テグザー』は、ゲームアーツの同名パソコンゲームを移植した横スクロールアクションである。価格は5500円。プレイヤーは変形可能な戦闘メカ「テグザー」を操り、巨大要塞内部を進んでいく。ロボット形態とジェット形態を自由に切り替えられる構造は、当時の家庭用ゲームとしては極めて珍しかった。ハイスピードで動く敵、複雑に入り組んだ通路、そして限られたエネルギーを維持しながら進む緊迫感は、キャラクターものが主流だった1985年の中で異質な硬派さを放っていた。
テグザーの主武装はPC版で象徴的だったレーザーではなく、三連発の丸い弾に変更された。自動照準機能は健在だが、レーザーのように即時着弾せず、弾速にわずかな遅延があるため、敵に対する対応はよりシビアになっている。その代わり、弾を撃ってもエネルギーが減少しなくなった点が大きな改良であり、戦闘リズムに若干の余裕が生まれた。なお、PC版に存在したエネルギー最大値の増加要素は削除され、ファミコン版では最大値が常に999で固定されている。敵弾を受けるたびにエネルギーが削られ、ゼロになると爆発してミスとなる構成は変わらないが、ファミコン版はエネルギー回復アイテムの出現頻度が低く、結果として難易度はさらに高まった。
操作感もパソコン版の流麗さに比べてやや硬く、狭い通路や敵密度の高い場面では、変形や方向転換の遅れがそのまま致命傷につながる。背景や敵数はハード性能の制約から簡略化され、スムーズなスクロールも部分的な処理になっている。音楽もFM音源の重厚な旋律がファミコン音源に置き換えられたが、それが逆に無機質な孤独感を強調しており、金属質なBGMが戦闘の緊張を支えていた。弾の自動追尾と燃料消耗を天秤にかける独特のリズムは、プレイヤーの集中力を試す構造になっており、敵の配置を覚えない限り先へ進めない設計だった。
ゲームは全99面構成で、LEVEL6以降はLEVEL1〜5と同一構造の色違いステージが繰り返される。つまり一周は5面で構成され、以後は敵配置や色調が変化する周回制となっている。終盤に近づくほど敵弾の密度が上がり、エネルギー補給の機会も極端に減るため、後半は事実上の耐久戦となる。そしてLEVEL99をクリアすると、画面が一転して独特の演出が始まる。背景が暗転し、赤と青のミンメイ人形を模したドット絵が画面一杯に並び、それらがゆっくりと上方にスクロールしていく。この演出は永遠に続き、ゲーム進行は停止する。メッセージやスタッフロールはなく、静かな旋律が流れるだけで操作は受け付けない。家庭用ゲーム黎明期の“隠しエンディング”として知られ、当時は実際に到達したプレイヤーがほとんどおらず、長く幻とされていた。
このミンメイ人形は、アニメ『超時空要塞マクロス』のキャラクターを思わせる造形として語られ、のちの資料や実機再現でその存在が確認された。PC版やMSX版、X1版などには見られないファミコン版独自の演出であり、スクウェアの開発陣がファンカルチャー的な遊び心を込めた結果ともいわれる。戦闘一辺倒のハードな内容に対し、最後に突如として現れるキャラクター的モチーフは、理屈ではなく到達そのものを祝福する“ご褒美”だった。制作者が意図したかは定かでないが、厳しさの果てに一瞬だけ訪れる夢のような光景として、ファミコン世代の記憶に残り続けている。
『テグザー』は、80年代中期の技術的挑戦とメカニカルな美学が結晶した一本である。自動照準、変形、エネルギー制御といった要素を家庭用に凝縮した設計は、その後のスクウェア作品に通じる演出志向の源流といえる。限界まで戦い抜いた者だけが目にすることができた終幕のミンメイ人形は、単なるネタではなく、プレイヤーの努力と執念が報われる象徴だった。無機質な戦場の果てに現れるその柔らかな微笑みは、当時のファミコン文化における“理不尽とロマン”の共存を静かに語りかけている。
NAO:総評
ファミコン版『テグザー』における“ビームは心、変形はロマン”とは、単なる操作のことではない。自動照準という仕組みの中に、プレイヤー自身の冷静さと焦りが反映される構造そのものを指している。撃つたびに判断が問われ、変形ひとつで運命が変わる。つまりこのゲームは、反応の速さよりも精神の安定を測る装置だったのだ。弾が遅くても、操作が重くても、そこに意志があれば突破できる。九十九面の果てに現れる人形の微笑みは、戦い続けた者だけに許された“心のビーム”の到達点にほかならない。
出典:NAONATSU:総評
終わりの見えない要塞を進みながら、いつしか自分が何を目指しているのかもわからなくなる。それでも手を止められないのは、戦いの向こうに“何かがある”と信じていたからだ。弾を撃っても減らない安心と、増えないエネルギーの焦りが同居し、光るドットのひとつひとつが心拍のように感じられた。九十九面を越えた先、画面いっぱいに並ぶミンメイ人形がゆっくりと流れていく光景を見た瞬間、プレイヤーは静かに悟る。これは勝利ではなく到達の証。理不尽さの果てに置かれたやさしさが、今でも忘れられない余韻を残している。
出典:NATSU📘 説明書資料(テグザー [SQF-TX])
説明書:Internet Archive 所蔵版(テグザー [SQF-TX])
※Thexder [SQF-TX](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します

















































発売日:1985/12/19|価格:5500|メーカー:スクウェア|ジャンル:アクション
NAO: ビームは心。変形はロマン。
NATSU: 敵が賢いんじゃない、自分が鈍いだけ。