エピソード
トリビア
1983年にアーケードで登場したアイレムのバイクレースゲーム『Zippy Race』(海外名『Traverse USA』『MotoRace USA』)は、ファミコン版が1985年7月18日に発売され、アイレムが家庭用ゲーム機市場へ本格参入する最初のタイトルとなった。アメリカ大陸横断をテーマに、ロサンゼルスからニューヨークまでをオートバイで駆け抜けるというスケール感が特徴で、単純なレースというより「旅の道程」を走り抜ける感覚を重視していた。
操作は左右レバーによるハンドル操作と、加速・減速の二つのボタン。スタート時は90位から始まり、他の車両を追い抜くたびに順位が上がっていく仕組みで、アーケード版では1位を取ると敵車が出なくなるという演出もあった。ゲームはチェックポイントごとにオンロードとオフロードが交互に現れ、岩や木の障害物を避けつつ燃料を管理しながら走り続ける。燃料は時間経過や衝突で減少し、コース上に落ちている燃料缶で補給できるほか、チェックポイント到達時にも順位に応じて回復する。燃料が尽きると速度が低下し、停止するとゲームオーバーになる。
視点は基本的に真上からの俯瞰だが、チェックポイント直前には一転して後方視点の「3Dビュー」に切り替わる。このシーンでは対向車を瞬時に避ける反射神経が求められ、当時としては珍しい視覚的演出として話題を呼んだ。特にアーケード版では、手前に迫る車を避け損ねると一瞬で転倒するスピード感が印象的で、1997年刊行の『ザ・ベストゲーム2』(ゲーメストムック)でも「後のドライブアクション全般に影響を与えた」と評されている。
ファミコン版はアイレム販売からリリースされ、カートリッジには赤いLEDランプが搭載されていた。このランプはゲーム中の信号ではなく、通電中を示すデザイン的アクセントであり、子どもたちの間では「光るカセット」として記憶されている。グラフィックや動作はアーケード版を簡略化したものの、オンロード・オフロード・3Dという三つの視点切り替えを残し、燃料制のゲーム性やアメリカ横断というモチーフはしっかりと再現されていた。
難易度は後半に進むほど急上昇し、操作の繊細さが求められる。2周目に入ると排気量が上がったマシンに乗り換える設定となり、スピードは上がるが燃費が悪化するなど、シンプルながらリアルなバランスが加えられていた。敵車との接触や障害物衝突で燃料が減るシステムは、単なるスコア争いではなく「完走」そのものが目的になる構造で、ファミコン版では順位やタイムよりも走行距離の到達が重視されている。
BGMはステージごとに変化せず、エンジン音と効果音が中心。結果として「静かなロードトリップ」のような雰囲気を生み、当時の子どもたちには地味ながら妙に記憶に残る作品だった。
北米ではWilliams社のライセンスにより『MotoRace USA』として稼働し、アーケード版基板のディップスイッチを切り替えることでタイトル画面を変更できたという逸話も残る。ファミコン版の発売日は文献によって異なり、『ゲームマシン』(1985年9月号)では7月25日、『メディア芸術データベース』では7月18日とされているが、一般的には後者が採用されている。後年、PlayStationやセガサターンの『アイレムアーケードクラシックス』(1996年)に収録されたほか、2017年にはハムスターより『アーケードアーカイブス ジッピーレース』としてPlayStation 4/Nintendo Switchでも配信された。アクションとレースの中間に位置する独特のゲーム性は、40年を経た今でもオールドファンの記憶に残る一本である。
NAO:総評
ジッピーレースってのは、単なるレースゲーってより“生存競争”に近いんだぜ。速さより燃料、順位より命。道中で拾う燃料缶ひとつが運命を分ける。派手さもBGMもないのに、妙に心拍数が上がるんだよな。ニューヨークを目指す旅のはずが、気づけば“どこまで走れるか”を試す修行になってる。バイクが壊れるんじゃなく、燃料が尽きて止まるあの静けさがリアルなんだ。ファミコン黎明期にして、この静と動のバランス感覚はすでに職人芸。まったく、アイレムの初陣とは思えない緊張感だぜ。
出典:NAONATSU:総評
ジッピーレースを初めて遊んだとき、画面の奥に小さく見えるニューヨークが、なぜか本当に遠く感じたのを覚えてる。敵を倒すわけでもなく、ただ燃料を守りながら進むだけなのに、不思議と手に汗がにじむ。ガソリンが残り少なくなるたび、息を止めて走った。道が単調なのに飽きないのは、画面の先に“次の街”が見える気がしたから。今見ればシンプルな構造だけど、あの孤独な走行感、乾いたエンジン音、そして夜明け前の道路を抜けた瞬間の達成感は、今も脳裏に焼きついてるの。あれは子どもの冒険そのものだったわ。
出典:NATSU📘 説明書資料(ジッピーレース [IF-01])
説明書:レトロゲームの説明書保管庫(ジッピーレース [IF-01])
※Zippy Race [IF-01](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction_Booklet出典:※レトロゲームの説明書保管庫様による保存資料です / 権利は各社に帰属します


















































発売日:1985年7月18日|価格:4500円|メーカー:アイレム
NAO: 交通ルールはない模様。
NATSU: 地味なルックスとは裏腹に、後半ステージの難易度は本気。