エピソード
トリビア
1987年10月30日にハル研究所から3900円で発売されたジャウストは、ジャンルだけ見ればアクションなのに、最初の感触は妙に学園祭の出し物みたいに戸惑う。ダチョウに乗った騎士が空で槍試合をするという前提が強すぎて、説明がないと頭が追いつかないのだ。ハル研究所の作品紹介では、主人公がジャンプ力のある生物ミロに乗って空中戦に挑むと説明されていて、舞台も亜空間の競技として描かれる。ふわっと羽ばたいて敵に体当たりすれば勝てそうに見えるのに、勝敗は高さで決まる。相手より上から当てないとこちらがやられる。ここで初めて、落ち着いた雰囲気というより静かな修行が始まる。海外のアーケード作品を家庭用に移植した一本で、表面の奇妙さよりも、ルールの割り切りが古いゲームらしく潔い。
遊び方は単純で、ボタンで羽ばたき、左右に動き、相手とぶつかった瞬間の高さで勝負が決まる。勝てば敵は卵になって落ちるが、そこで安心すると次に負ける。卵を放置すると孵って再び敵になるから、着地して踏みつぶすところまでが一連だ。敵は波ごとに強くなり、赤白青のように性格が違う相手が混ざって、動きが鋭い相手や狙いが執拗な相手が増えていく。卵の処理が少し遅れただけで盤面が崩れるのに、足場は安全地帯ではなく、崩れる床があったり、下から溶岩の手が引きずり込もうとしたりする。逃げ続けると翼竜が現れて追い回すので、慎重になりすぎても詰む。勝ったと思った瞬間に危険が増える作りで、テンポが途切れない代わりに息を整える場所がない。二人同時プレイが売りのひとつで、協力して掃除するように卵を消す快感がある一方、同じ足場に降りるだけで邪魔になり、仲良くしていたはずが空中で押し合いになる。そのギリギリの混乱が、この作品の中毒性になっている。
裏側の話が面白いのは、移植が単なる作業ではなく時代の事情に巻き込まれている点だ。原作は1982年に稼働したアーケード作品で、英語版の資料では、アーケードの後に家庭用移植権を得た企業が存在したことが触れられている。1983年にはハル研究所の岩田聡がファミコン向け変換を短期間で成し遂げたが、当時進んでいた提携話が崩れて一度は棚上げになり、1987年に改めてハル研究所が日本で発売に至ったと説明されている。さらに後年、初期の試作基板がオークションで話題になり、完成版と比べると細部が違う版が保存された可能性も報じられた。ハル研究所の作品紹介ページに著作権表記としてATARIが明記されているのも、当時の権利の複雑さを匂わせる。つまりこの一本は、変な見た目の一発芸に見えて、実は初期のファミコン史の裏側に触れる窓でもある。
印象に残るのは、世界観の説明の薄さと、遊びの筋肉質さの組み合わせだ。騎士とダチョウの取り合わせが謎すぎて笑いそうになるのに、やっていることは高さ管理と盤面整理で、手が止まるとすぐ終わる。だからこそ、少しだけ上達した瞬間に景色が変わる。卵を落とす場所を読んで、落ち着いて着地し、危険が増える前に掃除を終えると、ようやく作品の静けさが見えてくる。波を重ねる遊びなので、気づけばもう一回だけと手が伸びるのも怖い。後の国産作品で似た羽ばたきの手触りを思い出す人がいても不思議ではないが、この元祖はあくまで海外アーケードの骨格そのままだ。妙な題材なのに理屈は厳密で、厳密なのに笑ってしまう。その二つが同居したまま、1987年の家庭へ持ち込まれた。部屋のテレビで遊ぶと、アーケードの派手さよりも操作の癖が前面に出て、勝てない理由が自分の指に返ってくる。そこが悔しいのに、たまに成功すると気分が晴れる。駄鳥の競技という冗談みたいな顔で、実は真面目な反射神経の稽古をさせられる作品だ。
ジャウストの裏側で外せないのがバルーンファイトとの関係だ。資料では、ハル研究所が任天堂の下請けとしてジャウストのファミコン移植を進め、ROM完成まで至っていたが、権利関係で折り合いが付かずお蔵入りになったとされる。そこで急きょゲームシステムをアレンジして発売されたのがバルーンファイトで、坂本賀勇、横井軍平、岩田聡、田中宏和の四人で制作されたと記録されている。その後に許諾が下りたためか、ジャウストもあらためてハル研究所名義で発売され、任天堂クレジットが入らず、タイトル画面のコピーライトがアタリ名義になっている点まで含めて、当時の版権と流通の複雑さがそのまま残っている。
NAO総評
バルーンファイトのご先祖だけど誰も気づかないのは、題材がダチョウの槍試合という時点で説明を拒んでいるからだろうな。やることは上から当てるだけに見せて、羽ばたきの癖と卵処理の段取りで普通に詰む。しかも二人同時という当時の野心まで抱えていて、仲良く協力するはずが台の上で邪魔し合う。さらに移植の裏に岩田聡の初期仕事が絡むという歴史まであって、変さが真面目に積み重なっている。静かな顔で容赦がないのが良い。
出典:NAONATSU総評
ダチョウで突進とか冷静に考えると謎すぎるのに、触ると手が勝手に慣れていくのが怖い。上から当てないと負けるから、ずっと高さを意識して羽ばたいて、落ちた卵を急いで踏みに行くのが忙しい。足場が崩れたり溶岩から手が伸びたり、勝ったと思った瞬間に翼竜みたいなのが来て一気に焦る。波が進むほど卵の放置が許されなくなって、落ち着いた雰囲気どころか心拍が上がる。二人で遊ぶと笑いながらも足を引っ張り合って、負けてもまた電源を入れてしまう。
出典:NATSU
📘 説明書資料(ジャウスト[HAL-JU])
説明書:Internet Archive 所蔵版(ジャウスト[HAL-JU])
※Joust [HAL-JU](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction Booklet
※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照。権利は各社に帰属します。












発売日:1987/10/30|価格:3900円|メーカー:HAL研究所|ジャンル:アクション
NAO: バルーンファイトのご先祖だけど誰も気づかない
NATSU: ダチョウで突進とか冷静に考えると謎すぎる