エピソード
トリビア
1986年10月31日にファミコンで発売されたミシシッピー殺人事件は、豪華客船デルタプリンセス号で起きた殺人を追う推理物でありながら、遊ぶ側に突きつけてくるのは推理力だけではない。元はアクティビジョンが手がけた海外のアドベンチャーで、日本では発売元がライセンスを得てファミコンとMSX2向けに展開し、ファミコン版の開発にはトーセが関わったとされる。探偵のチャールズ卿と助手ワトソンが乗客を訪ね歩き、証言と証拠品をつないで真犯人を告発する筋立て自体は王道だ。舞台は六月のある日、セントルイスからニューオーリンズへ向かう船旅で、閉ざされた船内に複数の事情が持ち込まれ、互いの憎しみが折り重なる。けれどゲームの空気は優雅というより疑心暗鬼で、聞き込みも探索も一度の判断ミスが積み重なって詰みに直結する。終盤になってようやく事件らしくなる前から、船長が知るはずのない話を口にするような妙な挙動まであり、事件の外側にも不穏さが漂う。こうしたズレが、後年はクソゲーの象徴のように語られやすい土壌になった。
本作の代名詞になったのが、情報の扱い方そのものが罠になる仕組みだ。証言はメモとして保存できるが上限があり、上限を超えると古いメモから消えていく。しかも乗客は同じ証言を繰り返してくれず、聞き返すともういいましたとだけ返される。つまり重要そうに見えない雑談を切り捨てると後で苦しみ、逆に何でもメモすると別の重要情報が消えていく。さらに集めた証拠品は、あるコマンドで調べ直して初めて進行条件を満たすことがあり、持っているだけでは事件が動かない。画面上に見えていない物を同じ場所で何度も調べさせたり、立ち位置が少しずれるだけで反応が変わったりするのも、このゲームのいやらしさであり、同時に当時のアドベンチャーが持っていた作法そのものでもある。説明書の一問一答が、証拠品は分かったつもりでも必ず調べ直せと念を押しているのも象徴的で、遊ぶ側に求められるのは推理のひらめきよりも、記録と手順の正確さである。
そして決定打として語られるのが、推理とは無関係な即死の存在である。特定の部屋に入ると落とし穴に落ちたり、入室直後にナイフが飛んできたりして、その場で終わる。犯人探しの途中で、なぜこんな罠があるのかという疑問だけが残るのに、物語は平然と進む。セーブ機能がないため、一度の失敗で最初からやり直しになりやすい点も語り草で、手順が少しでも崩れると同じ会話を聞けずに詰む設計と合わさって、怒りと笑いが同時に湧く。大人向けの言い回しや題材が混ざることもあり、子ども向けのはずのファミコンで妙に生々しい温度を感じる瞬間がある。物語が名作推理小説に着想を得たとされることも含めて、一本のカセットの背後に異文化の気配がちらつき、そこへファミコンの家庭感覚が無理やりつながった。その歪みこそが、忘れられない手触りになった。理不尽さが強すぎて酷評される一方で、当時のプレイヤーはノートに人物関係や部屋番号を書き、何度も同じ船内を歩いて自分の手順を整えていった。スコアを競うタイプではないのに、クリアしたという記録が話題になったり、後にゲームブックとして別の形で語られたりしたのも、突き放された世界を越えた人が確かにいたからだ。今振り返ると、この作品は推理の面白さよりも、情報と行動を管理する感覚を早い段階で家庭に持ち込んだ一本であり、あの頃の不親切さも含めて時代の匂いとして残っている。だから嫌いと言い切れない人が今も残る。あの船の廊下は何度でも戻ってくる。
NAO総評
原作の看板を背負った推理物なのに、船内は探偵に優しくない。聞き込みはメモが命で、一度聞き逃すと同じ話をしてくれないから、推理より先に手順の正しさが問われる。しかも客室には即死の罠が平然と置かれていて、事件解決以前に生き残れと言わんばかりだ。理不尽さが語り草になる一方で、手探りで情報をつなぐ感触は確かに冒険の味がある。攻略情報が薄い時代に、一本のカセットで何度も同じ川を下らせた。その執念を引き出す設計は、誉めにくいのに忘れにくい。今なら欠点と断じる所が、当時は体験として残った。だからこそ笑い話にもなる。
出典:NAONATSU総評
最初は何をしていいか分からなくて、船の廊下をうろうろするだけなのに、それでも不思議と続きを見たくなる。乗客の言葉をメモして、証拠を拾って、自分の頭の中で糸を結んでいく感覚が、子どもの探偵ごっこそのものだった。罠にやられて最初からでも、少しずつ手際が良くなるのが悔しくて楽しい。ノートに人物関係を書いたり、部屋番号を覚えたりしているうちに、ゲームの外にまで物語がにじむ。もういいましたと言われるたびに、聞き方の順番まで思い出になっていく。怖い事件なのに、画面の素朴さがどこか温かい。秋の夜に遊んだ記憶がよみがえる。
出典:NATSU
📘 説明書資料(ミシシッピー殺人事件[JF-11])
説明書:Internet Archive(ミシシッピー殺人事件[JF-11])
※Mississippi Satsujin Jiken [JF-11](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction_Booklet
※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します












発売日:1986/10/31|価格:5200円|メーカー:ジャレコ|ジャンル:アドベンチャー
NAO: 油断したら死ぬ推理アドベンチャー。初心者お断り。
NATSU: バナナの皮が凶器になる世界。理不尽を楽しめ。