ドンキーコングJR.の算数遊び

ドンキーコングシリーズ
エピソード
トリビア
1983年12月に登場した『ドンキーコングJR.の算数遊び』は、ファミコン初期の中でも異色の教育ソフトだ。タイトルに「ドンキーコングJR.」を冠しているが、敵をかわしてフルーツを集めるあのアクションではなく、算数問題を解きながら進める“学習系ゲーム”として企画された。任天堂が打ち出した「教育×ゲーム」の実験的タイトルであり、同時代の『ポパイの英語遊び』と並ぶ存在である。
本作には3つのモードが用意されている。まず「Calculate A」では指定された答えに向かって数式を組み立てる。ここで導いた答えは次の問題に引き継がれるため、計算の積み重ねを意識させる仕組みだ。「Calculate B」ではマイナス値を扱う問題も登場し、難易度がぐっと上がる。そして「+−×÷ Exercise」では、空欄に当てはまる数字や記号を選んで正解を導く練習モードとなっていた。どのモードも、画面内の鎖やロープを登り降りしながら数字や記号を拾い、解答を完成させるというアクション要素を絡めているのが特徴だ。つまりポパイ同様、キャラクターは“カーソル”に近い役割を果たし、ゲームとドリルの中間を狙った作りといえる。
2人同時プレイにも対応しており、2P側はピンク色のJR.を操作する。制限時間内に問題を解き、正解数を競うスタイルは意外に熱く、当時を知るユーザーからは「一人では退屈だが、対戦すると盛り上がった」という証言も残っている。教育ソフトとしては珍しく、友達同士で遊べるよう設計されていたのは見逃せないポイントだ。
開発段階では『算数レッスン』というタイトル案も存在したとされる。最終的に「遊び」の文字を残したのは、子どもにとって学習色を和らげたい任天堂の工夫だったのかもしれない。さらに北米版NESでは「Education Series」という教育ラインナップの目玉として発売されたが、同シリーズは結局この一本しか続かず、教育路線は短命に終わってしまった。販売不振や評価の厳しさも背景にあり、海外レビューでは「退屈で操作も直感的ではない」と酷評された記録もある。一方で「任天堂が算数に挑戦したこと自体が驚き」という肯定的な見方もある。
また、このタイトルは後年『どうぶつの森+』などの隠し要素として収録されたり、WiiやWii Uのバーチャルコンソールで配信されたりと、教育系ながら意外な再登場を果たしている。さらには『ドンキーコングJR.+算数レッスン』という複合カートリッジも存在し、一部ではコレクターズアイテムとして扱われている。
アクションと学習の融合は決して完成度が高いとは言えなかった。しかし、家庭用ゲーム機の黎明期に「ゲームで算数を学べる」という発想を提示したこと自体が画期的であり、今ではファミコン史の珍品として愛されている。算数を強制的に勉強させられた子どもたちの戸惑いと、友達と対戦して盛り上がった笑い声。その両方が記憶に刻まれた、ユニークで忘れがたい一本なのである。
NAO:総評
算数が題材と聞いて、子ども心に肩透かしを食らった一本だったな。あのドンキーコングJR.が敵を避けるんじゃなく、数字と記号を拾って式を作るなんて、当時は完全に戸惑ったんだよ。だけど制限時間が絡むと一気に緊張感が増して、誤操作ひとつで答えを落とすと妙に悔しかった。特に計算結果が次の問題に引き継がれる仕様は、ゲームというより連鎖パズルに近く、想像以上にシビアだったのを覚えてる。完成度は高いとは言えなかったけど、教育と遊びを無理やり混ぜた荒削りな感じはファミコン初期の実験精神そのもので、今となっては“珍品”として笑って語れるのが逆にいいんだよな。
出典:NAONATSU:総評
ピンク色のJR.を操作して、友達と算数を競い合う──あの場面は普通のゲーム以上に盛り上がったわ。一人で遊ぶと退屈に感じても、二人対戦になると意地の張り合いになって、焦って間違えるたびに笑い声が絶えなかった。教育ソフトのはずなのに、結局は勝負優先で学習は二の次になっていたのが面白いのよね。北米では「Education Series」として売り出されたけれど続編は出ず、商業的には失敗に終わった。でも、人気キャラのJR.を教育係に抜擢した発想や、“遊びながら学ぶ”という方向性は間違いなく先駆的だったと思う。粗削りさも含めて、今では懐かしさと一緒に語れる特別な一本だと感じるのよ。
出典:NATSU📘 説明書資料(ドンキーコングJr.のさんすう遊び [HVC-CA])
説明書:Internet Archive(ドンキーコングJr.のさんすう遊び [HVC-CA])
※Donkey Kong Jr. no Sansuu Asobi [HVC-CA](Famicom)(JP)
区分:説明書/Manual/Instruction_Booklet出典:※当時の説明書はInternetArchiveに保存された資料を参照 / 権利は各社に帰属します




















































発売日:1983/12/12|価格:4500円|メーカー:任天堂|ジャンル:教育
NAO: 算数って、ゲームにするとこんなにシビアになるんだな。
NATSU: ピンクJr.の可愛さに救われる、教育ソフトの罠。